玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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狼だらけの村で、村人に刺される

▼冬が来た。まごうことなき冬。スッと1度では起きられず、布団の中でうだうだしてしまうな。冬を実感している。今日は朝から出かけねばならない。しかし、私には買ったばかりのカシミヤの手袋がある。ほほほ。

 

昨晩、駅前でワゴンセールをしており「今日だけだよ」という、おじさんの声につられて買ってしまった。意気揚々と手袋の入ったビニール袋を開けると「カシミヤTOUCH」という札が目に入り、嫌な予感がする。昨日は暗くてよく見えなかったが「カシミヤ」ではなく「カシミヤタッチ」とは? これ、豆腐ハンバーグと同じでは。私は普通のハンバーグが食べたいのに。ビニール袋を開け「カシミヤTOUCH」の札をひっくり返すと裏に「アクリル100%」と書いてある。おまえ、アクリルじゃねえかオイ。300円で買える。わかりやすく騙された。2500円でカシミヤは安すぎると思った。

 

思いかえせば、サングラスをかけた胡散臭いおっさんが露店で売っていた。怪しいわー。カシミヤはあんな怪しい人間が売っていい物じゃない。再生数2ケタのYouTuberみたいな顔してたもの。偏見100%で今日も生きていく。

 

 

▼業務システムを改善するというので打ち合わせ。私も現行システムの仕様を知っているということで、とりあえず招集された。見かけたことはあるものの、普段話すことのないメンバーなので少し緊張する。

 

参加メンバーは私を入れて7人。そのシステムを使って業務をしている人間が5人、この業務システムを改善する責任者が1人、そして前回システムの作成を手伝った私。システムを作り上げた本人は都合がつかず欠席。彼がまた仕事を請けるのか、社内のエンジニアが改良、もしくは一から作るかはわからない。

 

話し合いが始まったものの、どうも様子がおかしい。業務システム改善は決定事項かと思いきや、現場の5人はまったく納得していない。改善の責任者であるAさん(50代男性)は上から命じられているようで、もう改善以外にないという話し方だが、他のメンバーは「時間がない」と改善に否定的だ。1対5と、傍観する私という構図。現場にまったく話が通っておらず、上だけで決められたパターン。こういう状況だと難航することが多い。

 

ただ、たしかにシステム改善はした方がいいとは思う。現場の負荷が高く、このままではいずれ担当者がつぶれてしまうかもしれない。そうならないように自動化できるところは自動化して負荷を軽減していく必要がある。だが、どうも改善責任者のAさんの言い方がよくない。「もう決まってんだからさあ、さっさとやればいいんだよ」という様子。

 

システム改善は、今までのフローを強制的に代えることから現場の反発が強くなる。システム改善によって仕事を失うという不安がある人もいる。そういった不安を丁寧に取り除かねばならない。また、新しいシステムを作るにはヒアリングや会議が増え、一時的に業務量が増える。それでも「システム改善をしたほうが最終的に自分たちが楽になりますよ」と粘り強く説得する必要がある。現場の協力なしには絶対にできない。それなのに「いいからさっさとやれよ」というAさんの態度は、かなり危うい。Aさんは命じるだけで、現場の実務を知らないということも反発を招いている。

 

Aさんからしてみれば上から命じられており「やる、やらない」の選択などない。「やる」しかない。同じ社内なのに、年下の人間たちに頭を下げて協力をあおぐのも嫌なのかもしれない。そもそも頭を下げるようなことでもないし、自分たちが楽になるんだから、さっさとやれということなのだろう。それは確かにそうなのだが、そうすんなり進まないのが人間というか。Aさんと5人の対立は明白で、言葉が強くなってきたので10分程度休憩することにした。

 

Aさんの言葉の強さが気になったので、Aさんと二人だけになったとき軽く触れてみる。「ちょっとみんな意固地になっているし、頭ごなしだと話も聞いてくれないので、ちょっとだけ言葉を柔らかくしていきましょう。僕もつい言葉が強くなりがちなので、Aさんも僕もお互いそこだけ気をつけていきましょうか」。

 

Aさんは「いや、君は全然言葉、強くないよ」という。知ってます! 知・っ・て・ま・す! Aさんに「Aさんは言葉強いから気をつけて。バカにしたり挑発しないで」というとムッとするでしょうよ。そこで「お互いに気をつけていきましょう」っていえば受け入れやすいと思ってオブラートに包んだのだ。ダメだ、オブラートは。正露丸をじかに飲ませないとAさんには効かない。現場がこれだけ怒ってるのはおまえのせいだからな。まず、それをわかれ。

 

話し合いは再開されたが5人とAさんの対立はますます激しくなった。現場の5人も業務改善の必要性はしぶしぶだが認めている感じはある。だが、ここまでこじれると、火あぶりにされてもAさんの意見に従いたくないという鉄の意志を感じるのだった。

 

この光景をみて人狼というゲームを思い出した。村人陣営と人狼陣営の2つに別れたプレイヤーがそれぞれの陣営の勝利をめざして戦うゲーム。このゲームは誰が嘘をついているかわからず、プレイヤー同士が説得や推理をしながらすすめていく。毎日、話し合いによって誰を吊る(処刑する)か決められる。人狼たちは、村人のフリをしてなんとか村人を吊ろうとする。対して村人は、霊能者や狩人など役職(特殊能力がある)を中心として人狼をあぶりだそうとする。

 

村人たちは人狼を吊るという共通目的がありながら、疑心暗鬼になって揉めることが多い。村人の中に筋の通った説明ができる人がいても、話が複雑でついていけなかったり、話し方が怪しかったりして信用を得られないことも多い。自説を理解できない村人をバカにするプレイヤーも出てくる。そうなると「この人は人狼ではないことは薄々わかっているけど、話し方がムカつくので吊る」ということがしばしば起きる。村がバラバラになっている。もうゲームに負けてもこのムカつく奴を吊らねば気が済まないということになる。同じことが起きている。

 

業務の負荷を軽減するのが目的であるはずなのに、Aさんの話を聞くぐらいなら吊られてもいい、全員狼に食われてもいいと村陣営の意志は固い。私が説得するのもおかしな話だが、なんとかなだめつつすかしつつパッションで説得する。上から強引に抑えつけても駄目なのだ。人狼ならば場を制圧してゲームを終えることもでき、メンバーはその場で解散する。業務改善は長い話し合いが必要になる。まだ何も始まっていない。

 

話し合いも終盤にさしかかり、業務改善に賛成する雰囲気が芽生えつつあった。そこでAさんが「まあ、君たちはね、経験も浅いし、あんまりまだわからないかもね」などと混ぜっ返す。場が紛糾した。おまえなあ、となりますよ。せっかくまとまりそうだったのに話が壊れた。あれか、一日一回不愉快なことをいわないと死ぬ病気か?

 

人狼には狂人という役職があって、村人を装って人狼陣営に味方する裏切り者がいる。まさに狂人の振る舞い。背中から刺された。あのね、私はあなたを手伝って代わりに説得してるんです。わかる? もう、こいつ吊るしかないな! 村が滅んでも私はいっこうにかまいません。私は今日Aさんを吊ることを提案しますので、みなさん、票を入れてくださ~い。

 

明日、村は滅びます。