玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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わからないままにサッカーを観ている

プランターに播いたミニトマトとバジルが発芽した。まだ1ミリにも満たない双葉で毎日すくすくと成長している。水をやれば、土に吸い込まれるようにあっという間に吸収する。「シミシミシミ‥‥」と音がしそうな感じ。その様子を見ているのが楽しい。植物はいい。彼らは人間と違って無駄口はきかないし、嘘もいわない。人間とちがって裏切らないから。

 

 

 

▼始まり方が怖いんだよ。やめなさいよ。

 

薬をもらいにかかりつけの医者へ。私は尿酸値が生まれつき高く、四十になってから尿酸値を下げるための薬を飲み始めた。1年前と比べ体重が減ったので、たいへん調子がいい。半年に1度ぐらい出ていた痛風の症状も出なくなった。その話を先生にすると「やっぱり体重を減らすのが一番いいんだよ」という。先生も痩せたらしく、調子がいいのだとか。

 

「そういえばずいぶん痩せましたね」というと喜んでいた。歳をとったら褒められても嬉しくないだろうと思っていたが、逆なのだ。すこぶる嬉しい。もっと褒めて、さあさあ! と、だんだん精神性が犬に近づいてくる。感情を表に出すか出さないかは別の話。先生は70歳ぐらいなので歳をとってからのダイエットはより難しかっただろう。偉い。頭とあごの下をなでながら「ヨーシヨーシ」と、ムツゴロウスタイルで褒めたい。いつもより美味しいドッグフードを買ってあげたい。

 

先生は「今までは患者に痩せることを勧めてたけど自分が太ってたからねえ。最近ようやく自信をもっていえてるよ」と嬉しそうだった。あんた、もう70歳超えてるだろうが。自信でてくるの遅すぎない? データでははっきりしていたが、ようやく実感がともなったというところだろうか。

 

おじさん同士が痩せただの、ベルトの穴がだのいいながらキャッキャしていた。ふと、その様子を看護師に冷めた目で見られていたことに気づき、顔を赤らめる。

 

 

 

▼ワールドカップ三苫選手の活躍を目にしてからプレミアリーグの試合を観だした。ミーハーど真ん中で、以前だったらそういうファンのなり方に恥ずかしさを覚えていたが今やなんともない。恥も外聞もないのが四十後半。自分の中で何かが変わったのだろうか。五十になれば全裸で街を歩きだすのでは。

 

子供の頃にJリーグが発足したとき、サッカーの面白さがわからなくてほとんど観ることはなかった。野球のように一打者ごとの勝負で区切られておらず、展開がスピーディーでついていけなかったのかもしれない。今、試合を観ると、こんなに面白いものかと感心してしまう。三苫選手のように卓越したスピードをもつ選手が、ディフェンスを置き去りにするようなプレーは爽快で魅力的だけど、サッカーのよくわからない部分も面白い。

 

どうしても野球との比較になってしまうが、野球の勝負は投手・捕手対打者で区切られている。もちろんイニングやランナーの有無、点差などで状況は異なるが基本的にやることはかわらない。データも多くわかりやすい。サッカーも個の能力が重要なのはもちろんだが、チームとしての作戦の重要さが占める割合が大きい。サッカーを観ていると「なぜかうまくいっていない」という時間帯が試合中に何度か訪れる。この原因を考えるのが面白い。

 

先日行われたブライトン×エヴァ―トン戦は、三苫選手を擁するブライトンは6位、対するエヴァ―トンは19位で降格圏内。エヴァ―トンはそれまでの四戦も勝ちはなく絶不調といっていい。負ける可能性は限りなく低く思えたが、終わってみれば1対5の大敗を喫することになった。前半の状況はひどく、開始30秒ぐらいに1点を失うとそこから相手のカウンターをくらい失点を重ねた。エヴァ―トンのサッカーはカウンターなので、ブライトンに対して有効だったのも大きい。まるで格上の相手とプレーするようなやりづらさ、窮屈さを感じた。

 

ブライトンはディフェンスから前線にパスをつないでいくビルドアップを行う際、細かいパスをワンタッチですばやく繋ぎ、相手のディフェンスを崩していく。調子がいいときのブライトンのパス回しは芸術的ともいえる。今回はそれがなかった。雨が降ってグラウンドコンディションが悪かったことも大きく影響したと思う。ブライトンのディフェンスの最終ラインはダンテとウェブスターだが、ウェブスターが球をもったとき早めにプレスをかけられ、カイセドやマクアリスタにいいパスを出せず、精度の悪いロングパスを前線に出さざるを得なかった。これはいつものブライトンの形ではなかったように見える。

 

ブライトンというのは、カイセドとマクアリスタのチームなのだと思う。二人とも華やかなイメージはないが、倒されにくく、球を奪われにくい。二人のしぶとさがチームを支えている。三苫は華やかでよく切れる武器のようなもので、カイセドとマクアリスタは体の中心のようなイメージがある。ここは代えがきかない。

 

前半は窮屈なまま、あっという間に終わってしまった。ハーフタイムで、ブライトンは一挙に四人交代させる。ディフェンダーのウェブスターはコルウィルに代わった。ミッドフィルダーのブオナノッテに代えてソリー・マーチ、ウンダブに代えてエンシソが特にうまく機能していた。後半はまるで違うチームで、最初からこのメンバーなら試合はまったく違うものになっただろう。監督はよくこれほど適格に問題点を見きわめて対処できるものだと感心する。

 

仕事でもたまにあるが「なんだかうまくいってない」という状況があり、どうしたらいいかわからないまま時間が過ぎることがある。小さなプロジェクトで「うまくいってない」と思ったまま進み、成果があがらず終わることもある。業務に遅れが生じ、ボトルネックがどこにあるか特定するのに時間がかかることもある。また、会社全体の売り上げが下降してその原因がつかめないこともある。人生を建て直すことの難しさも同じかもしれない。原因がわからず、それでも「なんだかうまくいってない」ということだけはわかり、時間だけは経ち焦燥感が募ってくる。そのよくわからないものを見きわめてなんとかしようとするところ、それが面白さなのかなと思います。