玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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人間に向いてない

▼ラジオを聴いていると、ゲームの思い出話をやっていた。ドラクエでレベルを1つ上げると兄から20円もらえたとか。懐かしい。RPGのレベル上げというのは面倒くさくて苦行だった。たしかにそういう時代があった。で、その人はさらに弟に業務を委託し、レベルを1つ上げると弟に10円あげたという。中抜きがひどい。現在、電通に就職してたりして。しばらくして父親にこの業務委託がバレて3兄弟はぶん殴られたとか。

 

私の周りでも、ドラクエの進みがすごく早い友人がいた。あまりに早く進んでクリアしてしまったから、最高レベルまで上がった彼の復活の呪文(20文字のパスワード)をもらって使うことがクラスで流行した。みんなその呪文を暗記していた。小学生、余計なことに頭を使いがち。なぜその友人がそんなにレベル上げが早かったかといえば、彼が学校にいる間、家にいるお父さんがレベル上げをやっていたのだ。当時、そんなお父さんがいて友人のことがうらやましかったものの、なぜお父さんが家でレベルを上げているかということはまったく考えなかった。

 

 

 

▼駅前で待ち合わせ。人を待っているとき、本を読んでいることが多い。もし待たされることがあっても本を読んでいるとまったく気にならない。待ち合わせの時刻より少し早かったが、本を読んでいると隣に誰かやってきたのがわかった。知り合いかと思ったら、まったく知らない20代の男性だった。再び本に目を落としてしばらくすると、彼はおもむろにアカペラで歌いだした。

 

なぜ、私の隣で歌うんだ。もっと他にいくらでも場所があるだろうに。そう思ったところで、ふとこれはYouTubeの撮影なのではないかと気づいた。あれか「知らない人の隣で熱唱したらどんな反応をするか?」そんな企画なのでは。男性の歌は思いの他上手で、足をとめている人たちもいた。反応するのも負けたような気がして悔しいので、本から顔を上げずに読み続けていた。男性は一曲歌い終わった後、話しかけてきた。

 

やはりYouTubeの撮影だった。YouTuberって本当にいるのか。ツチノコと同じで実は伝説上の生き物かと思っていたが。「歌、どうでしたか」と訊かれたが「ちょっと聴いてなかったです」と答えた。そっけないほうが、変人ぽくてウケるのではと私なりに気をつかった。「え、隣で歌ってたのに?」「気がつかなかったですね」「本‥‥紙の本て珍しいですね」「本屋にありますよ」「はは‥‥YouTubeとか観ます?」「観ないですね。携帯もパソコンもないんで」「携帯ないんですか!? え、なんで?」「親が買ってくれないんで」「‥‥はは」。

 

「いや、自分で買えるでしょ!」といわれると思ったら苦笑だった。話しかけてはいけない奴に話しかけたと、目が脅えていた。彼はさわやかな笑顔を浮かべつつ、ぎこちない動きで足早に去って行った。そういえば「この映像、YouTubeで使っていいですか」と最後まで訊かれなかったな。途中で、危なそうな奴だからボツにしようと思われたのだろう。さみし。不器用すぎて人間であることに向いていない。無断でYouTubeにあげていたら突撃しようと思います。

 

本当に関わったらダメなやつだった。

 

 

 

▼映画の感想『イブの総て』を書きました。1950年公開のサスペンス映画。当時の女性の価値観が垣間見えて面白かったです。サスペンスとして観ると、やや物足りなさもありました。