玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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今年も日本語は難しすぎる

▼作業をしながら箱根駅伝の実況を聴いていた。これぞ正月気分。アナウンサーが四年生ランナーを紹介するとき、何度か「最初で最後の箱根駅伝になります」と実況していた。そういう選手も多いのだろう。箱根に出るような大学は部員が百人ぐらいいて、なかなかレギュラーになれない。出られるだけでもすごいのだ。

 

でも、本当に最初で最後なのだろうか。箱根が好きすぎて、わざと留年して翌年も出る狂気の箱根男はいないのか。いたら応援してしまうな。そもそも大学は浪人して入ることもあるし、年齢に幅がある。留年して5年、6年になっても箱根駅伝に出ていいと思う。「今年、最終10区を走りますアンカーは、箱根の代名詞ともなった恐怖の8年生ランナー山田、留年し続けて8回目の箱根駅伝出場となります。しかし、その挑戦も今年で最後。大学の在籍可能期間は8年まで、本当に今年が山田にとって最後の箱根駅伝です。箱根も山田にとっては通過点、このあとは卒業できるか除籍になるか、山田にとって真の戦いが待ち受けています」という選手がいたっていいじゃないか。がんばれ山田。私だけは応援しているぞ。

 

 

 

▼お世話になっている会社へ。新年だから写真を撮りましょうとなった。私は埴輪のように立っているだけだったが、何人かはピースをしていた。そもそもピースとは何か。ピースについて考えたことのない人生だった。

 

平和について祈念するというより、なんとなくやることもないからやっておくという感じがある。Wikipediaをみると1960年代、ベトナム戦争に対する反戦運動のデモで、報道陣に向けたアピールから定着したらしい。私の子供の頃(1970~80年代)の写真をみると、たしかにピースをしている写真が多い。

 

ピースサインは手の甲を相手に向けると、侮蔑や卑猥な意味になる国もある。イギリス、オーストラリア、ニュージーランドではやってはいけないと書いてある。ギリシャではピースサイン自体が侮蔑の意味になるらしい。

 

「かつてギリシャでは犯罪者に向けて2本指で物を投げつける習慣があったからである」

 

犯罪者に物を投げつける習慣てなに? 2本指で投げるルールって決める必要ある? 謎の国ギリシャ。実に学びのある日だったな。

 

 

 

▼年賀状の返事を書いていてふと思ったが、年賀状には消印が押されていない。当たり前だけど、消印を押さない仕組みにしたのは正解で、人のことがよくわかっていると感心する。届いた年賀状に「1月3日」などと押されていたら少しまずい。こいつ、正月明けてから書いたなというのが一目瞭然。

 

検索してみると消印のない理由は「郵便局の業務を減らして効率化するため」などと書いてあるが絶対違うと思う。出した日を知られないためのはず。そう思いながらですね、今返事を書いているんですけども。それにしても誰が消印を押さない仕組みを提案したのだろう。調べてもわからなかった。実に物事がわかった偉い人。偉い人の見えない功績のおかげで、世の中は円滑にまわっている。

 

 

 

▼隣席のTさんにスマホを見せられ「これ、どう思います?」と訊かれる。LINEの画面で、年が明けた挨拶が表示されている。男性からの年始の挨拶で「今、仲間とバーで飲んでいます」と書かれていた。どう思うといわれてもな。なんでそんな難しいことを訊くのだろうか。どうも何も「ああ、そう」以外にない。

 

この男性とは飲み会で知り合い、今後、Tさんと親しくなる可能性があるらしい。つまりそれは狙っているということでいいのだろうか。Tさんはスマホをずいと私の方に出し「この一文から読みとれる意味を教えてください」という。国語のテストにあった作者の心情を答えよという問題は、この日のためにあったのだろうか。国語の問題などこれに比べればずいぶん簡単だった。

 

ちょっと考えて思いついたのは、なぜ仲間と楽しんでいるのにわざわざLINEを送ってくるのかということだった。楽しくやってるんだからそれでいいのに。年末に仲間とお洒落なバーにいる自分が好きなのではとも思える。本当に楽しいときって、誰かにそれを見せびらかすのかな。友人といるとき、スマホで何かやって他の人に送るのも友人たちに失礼かもしれない。まとめると、お洒落なバーに仲間といることができる、そういう自分を見てほしい、自分大好きな人に思えるというとTさんは耳を塞ぎ「そんな解釈、聞きたくない!」といった。昭和のリアクション。

 

どうもTさんが不満なのは、お洒落なバーにいるのなら「このバー、すごく良かったんで今度一緒にいきませんか」と、なぜいえないのかということらしい。でも、それは男性に酷なように思う。そこで二者択一を迫るということは、悪い方に転がれば正月早々フラれることを意味する。誰だって新年早々、秒で不幸になりたくない。それならば反応をうかがいつつ、徐々に外堀をうめていこうという男性のやり方も理解できる。

 

「え、じゃあ、なんですか? 私の方から『すてきなバーですね。行ってみたいな~』みたいなことをしろということですか。いや、そんなまだるっこしいことしてないで、さっさと誘えばいいのに。めんどくさいわ~。すぐ白黒ついた方がよくないですか?」「だって、そこでフラれたら正月早々ちょっと悲しいし」「うっわー、一度や二度フラれたぐらいで、え~、もっとガンガンきなさいよ」

 

なぜ業務一日目に仕事以外のことで、私が詰められにゃならんのだ。私、何かしましたか。Tさんは結局「すてきなバーですね、いいな~」と返事をしていたそうである。おまえ、送ってんじゃねぇか。散々文句いったくせに。男性からはその後、まったく連絡はないそうです。すてきなバーを見てほしかったという純粋な人なのでは。

 

 

 

▼正月の挨拶といえば、水商売の方は年始の挨拶を事前に機内モード(オフライン)で書いて準備しておくという。相手の名前入りでメールやLINEで文章を書いておき、年始と同時に接続すれば、相手には今書かれたかのようにメッセージが届く。名前入りだから、受け取った相手は自分だけのために書いてくれたように思える。そういった小さな嘘も、接客業には必要だろう。などと、年賀状を年が明けてから書く私がどの口で。

 

 

 

▼映画の感想『大怪獣のあとしまつ』を書きました。ヒーローが倒した怪獣の死体をどう処理する? という面白い着眼点の映画。着眼点は面白かったけど、映画はそんなでも。