玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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縄文式

▼里芋を大量にいただいたお返しに、魚の煮付けセットを贈った。今まで贈り物に魚を選んだことはなかったな。肉ではなく魚を選ぶことで、人生の階段をまた一つ上がった気がする。わりとどうでもいい階段ですけど。ジジイの階段。

 

今まではお菓子などを贈ることはあったが、歳をとれば糖分のとりすぎが駄目な人もいる。歯が悪くなり、煎餅やクッキーが堅くてという人もいる。煮付けはレンジか湯煎で温めるだけで食べられる。料理をしなくてよいというのが本当にありがたい。なにせ料理は面倒だよ。なにもせずに出てくることがどれだけ嬉しいか。今日はレトルト食品を作ってくれた人に感謝の舞を奉納してから寝る。

 

 

 

▼『コタローは1人暮らし』というアニメを観た。児童虐待をとりあげた珍しい作品。笑いとシリアスさのバランスがよく、あまり重くならずに難しいテーマを描いている。コタローの飄々とした人柄と周囲の大人たちの優しさがよかったです。たとえ子供を虐待した親でも、ずっと子供を虐待していたわけではなく、優しかったときもあったのかもしれない。その思い出を胸に生きていく子供もいるのだなと思いました。虐待というのはいろんな痕跡が残る。子供に虫歯が増えたり、服が汚かったり、見知らぬ人の家にあがりこみたがったり。周りは、そういう子供の声なき声を聴き逃さないようにしないといけないのだろう。心に残る作品。

 

 

 

▼仕事で年末のスケジュールについて話す。部屋に奇妙な虫の出る女こと虫ちゃんに「年末って、いつぐらいからですか」と訊かれる。「テレビとかで忠臣蔵がやってると、そろそろ年末の気分かなあ」と答える。忠臣蔵がピンとこないようだった。「12月14日に赤穂浪士が吉良上野介邸に討ち入って――」などと説明すれば「ああ! ありましたね、そういえば。バレンタインデーの二か月前のやつ」といわれた。間違いではないが、なんか納得いかないな。吉良も泣いているのでは。

 

そういえばここ何年か忠臣蔵をテレビで観ていない。忠臣蔵もだんだん忘れられていくのかな。なにせバレンタインデーの二か月前のやつだし。そういう扱いだし。

 

打ち合わせの説明資料で、ある商品を写真に撮る。以前は商品の大きさの比較に、横にタバコの箱やライターが置かれた。タバコのイメージが低下したせいか、もうタバコの箱は使ってはダメな気がする。誰も何もいわないだろうけど。虫ちゃんに「スマホを置いて」とお願いすると「ものすごい古い奴なんで恥ずかしいですよ~、傷も多いし」と拒否される。スマホ見られるのって、そんなに恥ずかしいのかな。

 

仕方がないので私のガラケーを置いて撮影した。昼食後の打ち合わせでみな眠かったのかもしれない。打ち合わせはのんびりした雰囲気で始まった。さして盛り上がりもなかったが、商品比較にガラケーの画像がでたときだけは「おお! まさかのガラケー」「え、あれがうわさにきく‥‥」「なんか蓋に『縄文式』って書いてない?」などと盛り上がっていた。ので3人ほど処刑した。

 

べつに縄文式土器も土器に「縄文式」とは彫ってあるまい。後世の人が勝手にそう呼んでいるだけで。真面目に反論してしまって、余計に恥ずかしかった。私はまだ縄文式携帯を使い続けている。いつかは令和式に追いつきたいが弥生、古墳、飛鳥、平安、奈良、鎌倉、室町、安土桃山、江戸、明治、大正、昭和、平成、令和と延々続くわけで、がんばっても古墳時代ぐらいで力尽きるのでは。私の墓は前方後円墳にしてほしい。

 

 

 

▼駅のホームで電車を待っていると4、5人の高校生の集団がいた。「5割で頼む」などといいながら交互にお腹にパンチを打ち合い「きっつ~! 今の8割はあったって」「いや3割しか出してないわ」などと痛がりながら盛り上がっている。キャッキャキャッキャしている。ひとり明らかに筋骨隆々の子がいる。その子が殴るときはみんな「2割で! 2割でお願い!」などといい、そのたくましい子も「わかった」とうなずくが、なぜかほぼ全力で殴るというのをやっていた。まったく話を聞いてなくて面白い。殴られたほうは悶絶している。

 

バカでくだらないけれど、振り返ってみればこういうことが一番楽しかったのかもしれない。豪華な食事や高級クラブというのも楽しいのだろうけど、私にはそういうのは向いてない気がする。どこか居心地が悪くてアウェイの感じがあるのだ。獅子座流星群をみるといっていた友人が夜中の二時にやってきて叩き起こされて、こっそり家を出て流星を見たり、学校の帰りにやることもなくただダラダラと話していたり、大貧民をやり続けたり、今考えるとそんなことが楽しかった。

 

世の中を嫌いにならないために楽しいものを見つけたほうがいい。そんなことをいわれたので自分が楽しいと思うことを書き出してみた。フリスビーを団地の5階ぐらいの高さまで投げて、弧を描いて落ちてくるところをキャッチするとか、食事時に住宅街をとおっていろんな家の料理の匂いをかいでメニューを当てるとか、ジェットコースターが落下するとき胸がゾワッとする感覚とか、実にどうでもいいことばかり好きだった。こんなようなことを100個ぐらい書き出した。

 

 

 

▼映画の感想『ファーザー』『ザ・ウェイバック』『燃ゆる女の肖像』を書きました。『ファーザー』はアンソニー・ホプキンス主演の認知症老人の作品。認知症になった側の視点というのは珍しかったです。なかなかさみしくつらい映画。『ザ・ウェイバック』はアルコール依存症になった人間がバスケチームのコーチになる映画。これもつらいんですよね。ベン・アフレックは、パッとしない人が似あうようになったなあ。あまり面白くなかったけど。

 

燃ゆる女の肖像』は18世紀が舞台の映画。自由恋愛などできず家のために決められた者と結婚する時代の話。一場面一場面が絵画のように美しかったです。この時代、女性は腋の毛をそらなかったのだろうか。堂々と毛を出していて感心してしまった。いろいろ面白い部分がある映画。