玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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扇風機

▼いよいよ夏が本気を出してきたようで、嫌な感じに蒸し暑い。窓を開けるとびゅうと風が吹き込んで、セミの羽が部屋にはいってきた。薄い黄色に透けていて飴細工のように美しかった。

 

家には扇風機が四台ある。それぞれ個性がある。二十年以上も使っているから弱ってきて品のいい微風しか出ず、タイマーが壊れているもの。絶好調だがタイマーがうるさく、首を振って終点までくると「ガキッ、ギギギ‥‥」と音を発するもの。リモコンがついていてリズム機能(風の強弱がつく)もあるが、首振り機能が壊れ、リモコンのスイッチ(入れる切る)部分だけが壊れたもの。リモコンはタイマーやリズム、強弱などは生きているが肝心のスイッチ部分だけ壊れた。他に、正常な一台もある。これは無駄に元気な新入社員みたいなもので、風力が弱・中・強ではなく、強・超強・危険ぐらい強い。音も異常にうるさい。

 

エアコンをかけて眠るのが好きではないので扇風機をよく使う。どれも一長一短というか、短しかないような。今はちょっといい扇風機は柱みたいなデザインのものがある。縦に細長くて、でも地震のとき絶対倒れるだろうなという見た目なので今一つ買う気にならない。あと、羽なし扇風機もあるが、扇風機はがんばって羽を回している姿が愛らしいので、どうしても羽がついたやつを選んでしまう。

 

首が「ガキッ、ギギギ‥‥」と音を立てるやつを我慢して使っていたが「おまえは、やればできるやつだ」と毎日声をかけていたところ直った。よしよしする。扇風機は好きだ。特に安いやつは自分で組み立てるものが多く、それがプラモデルのようで楽しい。学生時代、「機械が苦手」という女の子がいて、その子の家にいって扇風機を組み立てたことがある。機械の知識がなければできないとか、そんな高度な話ではないのだけど。扇風機を組み立て満足し、すぐにおいとました。

 

 

 

▼映画『ウィリーズ・ワンダーランド』を観る。またどうしようもないホラー映画にニコラス・ケイジは出ていたな。めちゃくちゃな映画にでても、まったく評価が落ちないのがニコラス・ケイジのすごさかも。「またやっとる‥‥」としか思わない。いつか感想書くかも。Amazonプライムで『メイド・イン・アビス 烈日の黄金郷』の配信が始まった。世界観が好きな作品。面白いのだろうけどメイド・イン・アビスは子供がひどい目にあう話が多くて、観ていてかわいそうになる。大人はどんだけひどい目にあっても平気なのに。

 

 

 

▼アルバイトのギャルと話す。夏だし、怖い話なんかない? と訊いた。

 

彼女の部屋にはベッドがあり、壁に押し付けて置かれている。ベッドが置かれた側の壁には、たまに何匹か正体不明の虫が貼りついているという。その小さな虫は殺しても殺しても、ちょっと時間をおくとまた壁に貼りついている。ベッドと壁の間に少し隙間があり、そこで繁殖してあがってきているのではないかという。

 

今までベッドをどかして掃除したことはない。重すぎて一人ではどかせないらしい。ベッドの上でお菓子とかを食べて、その食べカスが落ちて虫が出たのだろう。きっとそうだ。ギャルの部屋は汚いからだ。偏見が強化された。ベッドが重くて持ち上がらないから部屋にきてどかしてくれという。絶対いや。気持ち悪い虫が大量にでてきそう。私がいった怖い話って、そういうんじゃないんですけど。怖いか怖くないかといえば、めちゃくちゃ怖い。

 

そういえば古典『堤中納言物語』のなかに『虫めづる姫君』という話があった。あれに影響をうけて宮崎駿は『風の谷のナウシカ』の参考にしたらしいという話をする。ギャルはその話を給湯室でしたところ、意外に教養があるということで羨望の眼差しを浴びたと喜んでいた。私はそのまま給湯室にいき「あの話は私が教えた」といったら「こいつ、本当に器ちいせぇな」という眼差しを浴びた。それはそれで気持ちがよいもの。