玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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メロスの山賊

▼本棚を整理したら『走れメロス』が出てきたので、懐かしくて読む。街に出てきたメロスは人々から王のうわさを聞く。王が圧政をしいて人々を殺戮しており、メロスはそれに強く抗議をする。メロスは「王を生かしておけぬ」と、短剣を持ったまま王城に入ったところを捕縛されてしまう。そりゃ捕まる。メロス、アホだったのだな。メロスは、殺されるのはかまわないが妹の結婚式があるから出席させてくれと王に頼む。そのとき、自分の身代わりとして友人のセリヌンティウスをおいていくという。もし、指定時刻まで戻らなかったらセリヌンティウスは殺されてしまう。そもそも結婚式と友の命なら、友の命を優先したほうがいいと思うんだけど。

 

恐ろしいことにこの話はメロスと王の間で勝手にすすみ、セリヌンティウスはいっさい知らない。メロス、相当やばい奴だった。もう友達でもなんでもないわ、こんな奴。メロスは道中さまざまな妨害にあって、結婚式にも出席でき、なんとか陽が沈むまでに王城にもどってくることができた。メロスとセリヌンティウスの友情に感激した王は改心し、二人を許すというもの。なんだそれという話。

 

道中、山賊がメロスの行く手を阻む。中学時代に学芸会で山賊役をやったのを思い出した。「どっこい通すものか」とメロスの前に立ちふさがるのだ。なぜこれを憶えているかといえば、友人からダメ出しをくらったからである。「弱そうで、まるで山賊らしくない」といわれ、なんどもこの「どっこい通すものか」をいわされた。生徒の間でも学芸会に対する向き合い方、温度に差がある。私はどうでもいいと思っており、適当にやっていた。

 

だが友人は真面目な性格で、私のやる気のない山賊が許せずに執拗にダメだしする。「もっと胸を張れ」「山賊らしい表情をしろ」などといわれ、私のほうも何度もやり直しているうちに頭にきて、そこまでいうのであればそもそも「どっこい通すものか」というセリフがおかしいと言い出した。「どっこい」という言葉は古臭く、あまり使われてもおらず感情が入らない。こんなセリフいえるか、脚本を書いた奴を呼んできて書き直させろということになった。友人も、確かにひどい脚本だと怒り出した。脚本を書いたのは先生で、私たちの言い争いを聞いて本当に嫌そうな顔をしていたのを憶えている。重要な役ならばともかく、そこしか出番がない山賊Aのセリフを書き直せとか、頭おかしい以外にない。俳優気取りかよ、という。実にお気の毒。

 

私たちの顔を立ててくれたのか、山賊Aのセリフは書き直された。だが、私の大根演技は相変わらずで悲惨の一言だった。もう二度とセリフがどうとか偉そうなこというんじゃないぞ。いい思い出。

 

 

 

▼夕方、涼しくなってから選挙へ。同じことを考える人が多いのか、投票所は混んでいた。バナナ、もやし、食パンを買って帰宅。明日の朝はピザトーストにしよ。ぐふふふ。

 

安倍元総理が銃撃されて亡くなった。テレビでよく見知った人が突然亡くなってしまうといのは本当に気の毒で恐ろしいことだった。こんなことが日本で起こるのだなと驚く。首相経験者が襲われて命を失くすのは二・二六事件(1936年)以来ではないか。もちろん政治家の襲撃事件というのは以降も何度か起きてはいたけれど。ひるがえってみれば、それだけ安全だったということであり、これをきっかけにして今後、治安が悪化していくのだろうか。

 

首相を襲った山上容疑者(41)の記事を読むと「特定の宗教団体に恨みを抱き、安倍前首相が統一教会と関係があると信じていたため、犯罪を犯した」という記事を読んだ。海外紙では統一教会(現 宗教法人世界平和統一家庭連合)とはっきり報じられているがなぜか国内メディアでは伏せられている。不思議なこと。

 

犯行動機について、宗教団体に母親が寄付をし続け、家庭が滅茶苦茶になったことが挙げられている。それはもちろん動機の根幹の部分ではあるけれど、やはり氷河期世代ということも大きいのではないか。もし彼が結婚しており、養う家族がおり、正社員で働いていたら、たとえその宗教団体を恨んでいてもあそこまでの犯行に至らなかったのではと思ってしまう。世界を認識するとき、自己によってしか認識できないのだから自分が一番大切という考え方はあるだろうが、自分が一番大切というのはなんだか虚しい気もするのだ。他に大切なものを作ることができなかった虚しさを感じる。

 

十年ほど前に経営学者のドラッカーがブームになった。経営についての話は頭に残らなかったが、幸せに暮らす方法として「自分が所属する場所をいくつか作る」ことを挙げていたのは印象に残っている。趣味の集まり、学生時代の友人、町内会、職場の同僚、ネットの知り合い、なんでもいいけれど自分の居場所をいくつか作っておくこと。それが自分の避難場所になったり、自分を支えてくれる心の拠り所になるというのはなんとなくわかる。彼が罪を犯した理由はわからないが、それでも孤独というのが犯罪の根底にあるように思えてならない。きっとそんな人は多い。たった一人でも心を許せる人間がいれば事件は起きなかったのではないか。私も氷河期世代で、親が新興宗教にのめりこんでいないにしろ、彼と似た部分はある。これからも、いわゆる「無敵の人」による犯罪が増加していく予感がある。

 

選挙速報をみると自民党が圧勝とのこと。周囲は野党支持者ばかりなのだけど、与党支持者って本当に多いのだな。だから与党なんでしょといわれれば、本当にそのとおりですけど。

 

 

 

▼映画の感想『フロッグ』を書きました。主人公が途中から切り替わるちょっと変わったミステリー。ミステリー好きの人は好きかも。