玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

このブログの内容はすべてフィクションです

野望のない生活

▼半年ぐらい前に痛めた四十肩が治らず、ここまで来てしまった。特に何が不便というわけでもなく、たまに右肩から首の後ろにかけて痛む程度。いつか、この痛みが固定されて治らなくなるのだろうなあ。抵抗するために体操をしている。もはや負けは決まっているが、どれだけ損害を少なくするか、負けを遅らせるか。これから先の年齢は撤退戦ということか。ますます書くことが老人じみてきた。ヨボヨボ。

 

 

 

▼歳を感じたことがもう一つあった。外出しようとエレベーターを待っていたら、近所の子供たちがおもちゃの銃をかまえて「バキューン、バキューン」と私のことを撃ってきた。弾は出てないのでフリだけ。今までだったら気づかない様子で視線を逸らしていただろう。だが、このときはなんとなく気が向いて、胸を抑えて全力でやられたフリをしてしまった。以前の私なら考えられないこと。エレベーターに乗りながら、人は変わるのだなあと少し嬉しくなった。歳による変化なのかな。自分で自分のことがよくわからない。

 

自転車で買い物に出ようとしたら、先ほどの子供たちがわざわざエレベーターで追いかけてきて、また「バキューン、バキューン」とやり出した。視線を逸らして無視した。あれ? さっきはノリ良かったのになぜ? という不思議そうな顔をしていた。その場に他の大人がいて恥ずかしかったからだ。私は、初めて会いましたけど何か? という顔で通り過ぎた。人はそうそう変わらないものである。

 

 

 

▼友人Nと久しぶりに話す。彼は法律関係の国家資格をいかし、独立しようと忙しく働いている。正社員として働いてしまうと独立しにくくなるため、週5日は会計事務所でアルバイトし、土日は自分の仕事と独立準備にあてている。休みがない。彼の奥さんはドラマやリアリティショーが大好きで、動画サイトで『バチェラージャパン』や『イカゲーム』を忙しそうに観ているらしい。普通に観ると時間が足りないので1.5倍速ぐらいで観るのだとか。知らんがな。子供はいないし、仕事をしているわけではない。

 

奥さんは独立などどうでもよく、Nに安定した会社員でいてほしいという。Nは人に使われるのが嫌で絶対に独立したい。見ている方向が違う夫婦というのはなかなか大変そう。Nは自分では奥さんのことを直接悪く言わないものの、奥さんの愚痴を私に言うことで、私から「けしからん奥さんだな!」という言葉を引き出したいように思える。ひじょうに回りくどい何かを感じる。夫婦はお互いが納得していれば、どんな奇妙な形でもいいように思う。世間に合わせる意味などない。奥さんが多少歩み寄ればとも思うけど、私が口を挟むことではない。

 

私はどちらかというと奥さんに共感している。のんびり日がな一日、ドラマや映画を観ていられたらどんなにすばらしいことか。そんでたまにブログで感想書いたりして。なんという野望のない人生。ありです。断然ありです。私が奥さんの悪口をまったく言わず、むしろ「うらやましい。最高の生活。養ってほしい」などと言うので、Nは余計ストレスがたまったようだった。「おまえ、わかってないな」というモヤモヤした雰囲気をのこし、会話は終わった。野望ない側だったもので、申し訳ない。

 

夫婦で向いている方向が違うというのは大変なのだろうな。どちらが正しい正しくないではなく、同程度の野心、価値観、金銭感覚などがないとなかなか難しいのかもしれない。まったく同じことを以前に書いたような気がするな。