玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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味噌ラーメン

▼パソコンから異音がする。電子レンジがいかれようとも、ウォシュレットが壊れようとも、会社が傾こうとも動じなかった私だ。だが、パソコンがうなると慌てる。あわあわする。突如、ファンの辺りからウォンウォンウォンという激しい音が聞こえてきた。慌ててシャットダウンした。

 

以前使っていたパソコンは自分で組んだものだったし、中をしょっちゅう開けてはパーツを取り替えていた。性能もあまり良くなかったので、どんどん増設した。その際、掃除も自然にしていた。今、使っているものはパーツだけ指定して店で組んでもらったやつなので、まったくいじっていない。当時は性能が良かったので、まったく増設せずにここまできてしまった。掃除をした記憶もない。開けてみると、パソコン全体を冷やすファンと、CPUに付いているファンの両方にホコリがびっしりとついていた。恐ろし。火事になりそう。

 

 

CPUを放熱するため、ヒートシンクという金属部品がある。宇宙人が作った神殿みたいで好きなのだ。SF感がビシバシする外見でときめく! どのヒートシンクもだいたい似ておりますが、よく見れば小さな違いがあります。螺旋状の美しいものもあったり。コロナが収まったら、ヒートシンク展を開催してくれないだろうか。しないだろうな。コロナ前からなかったから。

 

ファンもそうだがヒートシンクの隙間部分にホコリがびっしりと付いていた。鋭意、掃除する。直った。いや、元から壊れてなどいなかったのだ。実に情けないこと。パソコンの性能がよくなって、ずいぶんと手がかからなくなった。その分、手入れもしなくなってしまった。みんなパソコンの掃除などやっているのだろうか。会社のパソコンをしょっちゅう開けたり閉じたりしていたから、なんの抵抗もないけれど、開けたことがない人はかなり怖いんじゃないのかな。どうやって手入れしているのか不思議。しないのかな。

 

 

 

▼仕事を請けている会社へ。作業をしているが夜になっても終わらない。バイトの女の子がコンビニに行くという。

 

「あたし、買い物行くっすけど、ついでになんか買ってきましょうか?」。これがうわさに聞くギャルというやつか。話していると、浜田ブリトニーというタレントを思い出した。絶滅したとおもったがギャルは新宿区でひっそりと生き延びていた。ニホンオオカミ、オガサワラシジミ、ギャルである。実に希少。日本最後の生き残り。大切にしたい。

 

ギャルにラーメンを頼んだ。しばらくして彼女が戻ってきてトートバッグから頼んでいた品物を取り出した。ギャルは袋ラーメン(5袋セット)を取り出した。はっきり頼まなかった私が悪いがカップラーメンだと思っていた。さらにはモヤシや卵パックも取り出した。おまえ、本気か。作業の合間に小腹を満たすというより、食べる気マンマンだな。「カップラーメンより安かったんですよ」と言う。そりゃ、そうだろうけどー。

 

卵10個(1パック)も買ってきてどうするのか聞いたら「ゆで卵にして、みんなに食べてもらいましょうよ。卵うまいし」とギャルはどこまでも前向きだった。給湯室で料理をしたが、会社で料理をするのは初めてで何かワクワクするな。ラーメンどんぶりも皿もないが鍋だけは3つある。ラーメンだけ先にできても困るので、とりあえずゆで卵から作る。しかし、10個むくの面倒すぎるな。

 

新しい卵は殻が身と引っ付いてむきにくい。1週間ぐらい経ったものだといいんだけどな。卵の表面がデコボコになってしまう。ギャルの恋愛話を聞きながら卵の殻をひたすらむく。彼氏と映画に行ったが、2時間半も映画を観たのに感想が「なんかさびしい映画だったね」だけで「感情が死んでんじゃねぇか。もっと他になんかあるでしょ」と呆れていた。感想をたくさん言う人が、感受性や観察力が高いとはかぎらないように思う。作品を観ていろいろと思うところはあっても、それを表現することはまた別の能力かもしれない。外には一言しか現れなくても、中に降り積もるものがあるのでは。

 

「ないないない。悲しい映画みたばっかりなのに『メシ、何食う?』って、すぐ聞くんすよ。なんも考えてないわ、絶対」。それは確かにそうかも。卵の殻がむけた。

 

どんぶりがないので、鍋にそれぞれラーメンを作ってそこから食べることにする。すでに鍋には水が入れられている。計量カップはないがどうやって水を量ったのだろう。ギャルは、適当に入れたという。ギャルは適当だからいい。お茶を飲んだペットボトル(500ミリ)をゆすいで量り直す。モヤシもラーメンと一緒に茹で、切ったゆで卵を載せて味噌ラーメンが完成した。雨で寒かったので、思いのほか美味しい。鍋から直接食べるのが、学生時代の友人のところで食べているようで懐かしくて楽しい。「美味しいねえ! ね? ね? 一緒に作って良かったっしょ? 楽しかった? 楽しかった?」とギャルがはしゃいでいる。

 

「コロナ以降、一番楽しかった」と答えたら「楽しいことなさすぎー。闇の人生ウケルー!」と笑っていた。ギャルはゆで卵を配り歩いていた。