玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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論語と算盤

▼ミニトマトは育つし、大谷はよく打つ。

 

早起きして大谷選手の試合をテレビで観る。アメリカに梅雨はないから6月の空は青く澄み渡っている。もう向こうは夏なのかな。昼の試合は日差しがまぶしそう。大谷が活躍してからメジャーの試合を観ることが増えた。アメリカの球場は日本と違ってドーム球場がほとんどない。天然芝は選手の体にも負担が少ない。ただ、合理主義のアメリカン人がドームにしないのは不思議な気がする。野球は青空の下でやるという信仰のようなものがあるのだろうか。そんな信仰をこの時代になっても守り通している頑固者が案外いるのかな。だとしたら嬉しいけど。

 

それとも雨がそれほど降らず、ほぼ日程どおり開催できるからだろうか。青々とした芝は美しく整然と刈り込まれ、濃淡がくっきり見える。日本の芝もそうだが、あのストライプを見るとなんだか嬉しくなる。

 

 

大谷の打順になると、アニメ『呪術廻戦』のエンディング曲『LOST IN PARADISE』が大音量でかかる。「ショーヘイ オータニ ナンバーセブンティーン」のアナウンスが流れると、音楽をかき消すほどの声援を背に大谷が悠然とバッターボックスに入る。とてもわくわくする瞬間。大谷のバットがボールを捉えるときに出す音は、他の選手にはない。ボールが破裂するのではないかという音がして、高く弧を描いた球が飛ぶ。野茂にしろ、イチローにしろ、「もう二度とこんな選手は出てこない」と言われた。たしかにそうだった。でも、こちらが想像もしなかった活躍のしかたで喜びや驚きを与えてくれる選手は絶えることなく出てくる。これはどんな分野でもそうなのだろう。生きていると面白いことがある。生きていて良かった。

 

何かあったような感じだが、特に何もありません。ただ嬉しくて楽しいだけ。

 

 

 

▼渋沢栄一の『論語と算盤』を読む。

大雑把に言えば、利己主義に走って利益を独占しようとするのではなく、高い倫理観をもって国のために尽くすべきということが書いてある。渋沢は個人や企業が利益を追及することは否定しておらず、その方法が正しいものであれば問題ないとしている。競争についても否定していない。富や権力をむやみに敵視しているわけではないところに好感がもてる。ただ、一部の人間が利益を独占するようなことは戒めている。

 

内容は普遍的で易しい。中学生が読んでも理解できるように書かれている。だが、この内容が抵抗なくスルリと入ってきていいのかという疑問もあるのだ。渋沢が生きていたのは幕末から昭和初期までで、その頃と問題自体は変わっていない、世の中がそれほど進歩していないとも思えるのだ。

 

渋沢は商工業者の倫理観を問題視している。欧米人は倫理観を保つためキリスト教を用いている。ところが日本にはこれにあたるものがない。江戸時代、統治者である武士たちは『小学』『孝経』『近思録』から入り、『論語』『大学』『孟子』などを勉強した。だが町人は高度な教養は必要とされず、簡単な『実語教』『庭訓往来』九九や加減乗除などにとどまった。これが商工業者の倫理観が低かった理由として挙げられている。

 

身分制が廃止され、誰もが自由に学べる世になった。知識は手に入るようになった。だが、倫理観というのはどこで手に入るものなのだろう。渋沢は倫理観について論語を手本にすることを考えた。論語はいくつも現代語訳が出版されており、内容も特に難しくはない。完全な理解はともかく、子供でも読めるものだ。だが、現代人は渋沢の頃よりもますます論語を読まなくなっているだろう。そもそも本を読まない人が増えている。

 

思えば日本は奇妙な国で倫理を学ぶのに宗教に拠っていない。何を範としているのかよくわからない。だが海外と比べても、それなりに高い倫理観が保たれているように思える。学校で「道徳」の時間があっても、あれで何か学べたとは思えない。じゃあ、何から倫理を学んできたかといえば親、友人、周囲の人間に拠るところが大きい。しかし、周囲の人間は生身で、かなりでたらめで手本にならないこともある。私の父は家にくる郵便局員や配達の人間を噛むよう、犬を訓練していたという。ろくでもない人間である。そうなるとやはり本がいいのではないか。本の中の人間は正しい行動をとることが多い。ところが今や本離れが叫ばれている。でも、昔に比べて倫理観が著しく低下したかといえばそうとも思えない。

 

本は読まなくなったかもしれないがサブスクの普及によって、漫画はより読みやすくなった。アニメ、ドラマ、映画も多く観られている。もっとも正義を実践しているのが漫画やアニメのキャラで、もはやサブカルはメインカルチャーとなって倫理観を力強く支えているように思える。現代はアニメや漫画と、SNSによる炎上を恐れる同調圧力が倫理観の形成に深く結びついているのかもしれない。

 

 

 

▼映画の感想『デス・ショット』を書きました。いろいろ粗が目立つサスペンス。ついいろいろ悪口を言いたくなるな。悪口を言うの楽しいな!