玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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差腹

▼焼き鳥を買うために並んでいたら、前に並んでいる女子高生三人組の会話が聞こえた。一人の子に彼氏ができたらしく、他の二人が「塩(顔)、醤油(顔)、どんなタイプ?」と訊いている。訊かれた方は恥ずかしくて照れているようだった。「え~。塩とか醤油とかそんなレベルじゃないよ~。生きているゴミ」。謙遜なのだろうけど、ひどすぎでは。なぜ生きているゴミと付き合いますか。「ゴミの写真みせて~」「おまえがゴミって言うな」と盛り上がっていた。楽しそ。

 

 

 

▼以前、テレビで差腹(さしばら)についてとりあげていた。自分が切腹することで、指名した相手を切腹に追い込むという恐ろしい復讐法。もし相手を直接斬ってしまうと、自分が切腹になるのはもちろんだがお家断絶になることもある。そこでまず自分が死んで、相手を指名して復讐するのだ。それから興味をもって差腹の本を探していた。

 

差腹について書いてある本はあまりなく、氏家幹人さんの「かたき討ち」に載っている。差腹の例として阿波国微古雑抄に収録されている異事旧記に梶浦平次右衛門の話が出てきた。梶浦は浪人ながら裕福な暮らしをしており、剣や槍を習ったりする一方、相撲取りも抱えていた。同じ村に小野小平という浪人がいたがこちらは貧窮の身。小野は裕福な梶浦に嫉妬。恨みを募らせ、勝手に切腹をして書置きに差腹の相手として梶浦の名を書いた。

 

小野一族は徳島藩に小野の書置きを提出する。藩は小野のやり方は臆病と断じ、一族は謹慎を命じられる。だが、決まり事ではあるので藩は梶浦に腹を切らせたという。そんなバカな。あまりに不条理な切腹だったからか、徳島藩では以後、相手を指して切腹することが禁じられた。なんともすごい話。私が元ZOZOTOWNの前澤社長に嫉妬し、勝手に腹を切って死ぬようなものだろうか。自分ばっかり月に行ってズルい! とか。どうでもいいけど。小野は恐ろしい奴だな。悔しいから死んじゃう! っていう。武士としてどうなのだ。

 

梶浦と小野の関係があまりにさらっと書いてあってピンとこなかった。もうちょっと二人に何かあるんじゃないかと思い、国立国会図書館デジタルコレクション(コマ番号622)で資料を見たのですがたいしたことは書いていなかった。私は古文書も漢文も読めないですが、読めたら面白いだろうなあ。こんなバカ話を発掘したいなあ。四十代の趣味とは何がいいんだろうと前から考えていたが古文書の解読はいいかもしれない。

 

ただ、簡単にできる趣味とは思えない。古文書辞書なども出ているんですね。何年間か腰を据えて取り組む必要があるように思う。私も四十代、古文書の解読というのはジジイの趣味として正しいのではないか。アイドルの追っかけと古文書の解読なら、四十代としては古文書が断然正しい感じはある。べつにアイドルの追っかけでもいいけど。ここで趣味を増やすとなると一生かけてやることになるだろう。慎重に考えねば。今、私の趣味といえば日記や映画の感想を書くぐらいしかない。役に立つ何かをというのもある。古文書かあ。みんな何を趣味にして生きているのだろうか。

 

 

 

▼映画の感想『PROSPECT プロスペクト』を書きました。わりと好きな地味SF。SFの感想書いているのに、いつの間にかSNS憎悪が顔を出してしまった。よくない。