玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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雪山事件

▼散歩、少し肌寒い。ふと――今日は誰ともしゃべってないなと思う。コロナが流行ってから、そんな日も増えた。

 

前から50歳ぐらいの男性が歩いてきた。マスクをしていない。今、外でマスクを着けていないとなんだか少し危ない人に見えてしまう。でも、マスクを忘れたのかもしれないし、マスクを着けられない事情があるのかもしれない。思い込みで判断してはいけない。その男性はなんだか怒っているようだった。何か言いながらこちらに来るが部分的にしか聞き取れない。「どうせ‥‥みたいな‥‥いいんだろ!?」。

 

私の後ろの誰かに言ったのかと思い、振り返ったが誰もいない。男はいらついたように「だーかーらー! どうせ星野源みたいな男がいいんだろ! なあ!」と言う。これは私に言っているのではなく、独り言なのだろう。目を合わさずすれ違おうとすると「どこがいいと思う? 星野源」と男は、こちらに一歩踏み出してくる。私にしか見えない妖精なのでは。ヤバいおっさんの姿をしているけれど。しかしですよ、ヤバいおっさんの姿をしていたら、それはヤバいおっさんでしかない。

 

「は?」とその男に返事をすると、男は急に興味を失ったように舌打ちをし、通り過ぎて行った。今日、私が交わした会話は、星野源みたいな男がいいんだろおじさんだけです。人間と話したい。

 

 

 

▼5リットルの容器と3リットルの容器で、4リットルの水を量るというクイズを見た。任天堂の「レイトン教授」にありそうなクイズ。そんなに難しい問題でもない。

 

5リットルの容器で水を汲んで3リットルの容器に移す。移した3リットルの容器の水は捨てる。5リットルの容器に残っている2リットルの水を3リットル容器に移す。5リットル容器に水を汲み、3リットル容器に注ぐ。3リットル容器にはすでに2リットル入っているので1リットルだけ入ることになる。5リットル容器には4リットル残る。

 

上のやり方が正解なんですね。けっこう手順が面倒臭いのだった。てっきり5リットル容器に半分まで水を入れる(2.5リットル)。3リットル容器に半分まで水を入れる(1.5リットル)。この二つ(2.5+1.5)を合わせて4リットルなのかと思っていた。このやり方だと手順が少ないので早くできる。目分量だから少し量がずれるけれど。雑。人間性が表れている。私のやり方、不正解だったのかな。

 

 

 

中宮定子(ちゅうぐうていし)の話を読む。高校時代、古典の授業でやった記憶はあるがほとんど憶えていない。定子は一条天皇のお后で、才気あふれる清少納言が仕えていた。定子は、清少納言が才気を表に出しすぎて他人を揶揄しないよう、たびたび気にかけている。

 

長徳4年(998年)の冬、京都に大雪が降った。男たちが20人がかりで庭に巨大な雪山を作った。その雪がいつ消えるかという賭けをした。他の女房たちは年内に消えるだろうと予想したが、清少納言だけは翌年正月の十日過ぎと予想した。雪は清少納言の予想通りに消え残り、いよいよ十日を迎えようとしていた。得意になった清少納言は下人に命じて雪をとりにやる。お盆に載せて定子に献上しようとする。だが、下人によれば昨夜まで残っていた雪山がもうないという。清少納言は納得がいかない。誰かが自分が賭けに勝つことを妬み、雪を捨ててしまったのだと定子に言う。

 

定子は、自分が雪を捨てたのだと笑った。定子がなぜ雪を捨てたかは推測するしかない。清少納言が他の女房たちの妬みを買うことを考え、下人に命じて雪を捨てさせたということらしい。一条天皇の寵愛を受けた中宮定子だが出産の際に亡くなってしまう。このとき25歳だった。あの若さで行き届いた配慮ができたのだから、とても賢い人だったのだろう。年を重ねれば、このようになれるのだろうかと考える。どうもそうではない気がする。星野源みたいな男がいいんだろおじさんにはなれる気がする。

 

 

 

▼映画の感想『ショート・ターム』を書きました。家庭に問題のあるティーンエイジャーをケアする施設での話。繊細な子供たちがいて、かなり難しい仕事に思える。子供に問題がある家というのは、親にも問題がある家なのかもしれない。