玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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ラジオ体操とポテト

▼夏本番、酷暑。群馬県桐生市、伊勢崎市、埼玉県鳩山町で40度を超えた。私が住んでいるところは39度で済んだ。39度て。

 

あふーん。死んでしまう。冗談ではなくあまり外に出られない温度になってきた。あぢい。今日は一念発起して換気扇掃除。やっかいな油汚れを落としてやった。換気扇の掃除をすると、人としてのステージが一段あがった気分になる。あと、4739323段ぐらいある。

 

 

 

▼オンラインでA氏と打ち合わせ。打ち合わせも一段落「うちの坊主と話してみる?」と、Aさんが強引に息子さんを呼び込む。夏休み、どこも連れて行ってやれずストレスが溜まっているのだとか。音声のみの通話で、画面の向こうで何が起きているかはわからない。だが、お子さんの声で「べつに話すことないからいい」と言うのが聴こえる。そりゃ、そうである。初対面の四十過ぎのおっさんが、海や遊園地の代わりになるわけがない。「べつに話すことないから」と、しぶる声だけが聴こえる。なんでしょう、この、告白してないのにフラれた気分は。ただ、この場にいるだけで罰ゲームとなっている。

 

しぶしぶといった様子で、通話に出てくれたタカヒロくんと話す。「タカヒロくんは毎日なにやってるの?」「ゲームとか、宿題とか、たまに動画観たり‥‥」「夏だとラジオ体操とか?」「‥‥は、ないです。今年は」「そう‥‥コロナだもんね」「はい」「話せて良かった。ありがとう。ちょっとお父さんに代わってくれる?」「はい」

 

お父さんには、てめぇ、二度とやんじゃねぇぞ、という内容をごく丁寧に伝えた。タカヒロと私の身になれ。気まずいわ。今年は子供も大人も普段とはまったく違う経験をしている。のちに振り返ったとき、笑い話になればいいけれど。

 

子供の頃、夏休みは毎朝6時半からラジオ体操があった。夏休み前に胸にかけるひも付きのカードが配られる。体操に出席するごとにハンコがもらえる。子供だから、朝はギリギリまで寝たいわけで6時半開始なのに6時25分までは寝ている。25分に飛び起きて、とりあえず口をゆすぎ、顔を洗い、いや、顔は洗ってない、着替えだけして5階から階段を一息に駆け下りて広場まで走っていく。起床後、即レースをするわけで、着いた頃にはゼイゼイ息を切らしている。健康にいいわけない。寝ぼけまなこで体操をなんとか終え、ハンコだけもらって帰る。友達の姿も見かけるが、さすがにバカでも起きたばかりはテンションが低いのでまったく話さない。帰りついて、また寝るという。いい思い出‥‥なのか。

 

こうしてコツコツとハンコを貯めたカードは、夏休み終了後、ロッテリアに持っていくとポテトのSサイズと交換してもらえる。これがささやかな楽しみだった。子供の頃、私の家はお金がなく、外食に行くことも、ましてファストフードを買ってきてもらうこともほとんどなかった。ロッテリアとしては、子供がカードを持っていることだし、じゃあせっかくだから家族でロッテリアでも行くかという来店効果を期待していたのだろうけど、当時の私にそんなことはわかるわけがない。

 

今日はロッテリアでポテトをもらうのだ、とカードを握りしめ、家から30分ほど離れたロッテリアまで歩いて向かうのだ。普段入ることのないロッテリアのカウンターでおずおずとカードを差し出すと、お姉さんが「ちょっと待っててね」と言ってポテトを用意してくれる。そして「待ってる間、ジュース飲んでて」とコーラを渡してくれた。ポテトだけでもありがたいのに、ジュ、ジュ、ジュースまで頂けるんですか!? と興奮した。お姉さんが天使に見え、後光が射していた。なにせジュースなど家にない家庭。麦茶しかない。あのコーラの美味しさといったら。そうやってもらったポテトを持ち帰り、母に「俺のポテト食べる?」などと、得意げに言っていたことを思い出す。大人になってから、ファストフードが何店かあるとロッテリアに入ることにしている。