玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

このブログの内容はすべてフィクションです

ヘッドバンギング

プレミアムフライデーも終わり8月に。

 

長引いた梅雨も明け、ついに夏本番、俺の季節がやってきた。薫る潮風、焼けつくような砂浜、サーフボードにワックスを塗り、去年乗りこなしたあの大波を思い出す。海辺ではしゃぐマーメイドたち。マーメイドて。あまりの寒さに室温5度ぐらい下がったわ。そんな情景には、まったく縁のない人生を送ってきました。サーフボードというよりビート版、湘南というより近所の市民プール。そんな人生だった。

 

朝は寝ぼけまなこで再放送の『タッチ』か『キャプテン』を観て、昼には『いいとも』から『ごきげんよう』を流し観しつつご飯を食べる。午後1時半からのドロドロした昼ドラを観ていると友達から電話がかかってきて遊びにいく。まったく彩りのない夏休みを送っておりましたね。もっと、こう、何かないのかな。ないのです。

 

 

 

▼元大関 照ノ富士の復活優勝を観る。ケガに苦しみ、序二段まで落ちた人が辞めずに復活を果たす。映画のようなことがたまに起きるのだから面白い。前日、正代に負けたときは、やはり厳しいかと思ったが、同じ部屋の小兵力士である照強が大関 朝乃山の足をとって勝つという番狂わせがあった。この援護射撃で照ノ富士はまた単独首位に戻った。本当にドラマチックな展開だった。

 

照ノ富士の師匠である伊勢ケ浜親方は、とにかく顔が怖いんですよ。審判席に座っているとき、力士が「待った」をすると、ものすごい顔でその力士をにらみつけるのだ。力士のほうも、お客さんに頭を下げるのが本当だと思うが、真っ先に伊勢ケ浜親方に頭を下げてしまうという迫力。「伊勢ケ浜親方」で検索すると、サジェストに「怖い」って出るからな。怒ったときは、殺し屋の目をしている。

 

今日の優勝が決まる一番、照ノ富士が御嶽海のまわしをとり、力強く寄り切ったときは思わず声が出た。照ノ富士の優勝を見届けた伊勢ケ浜親方が、通路の奥でそっと涙をぬぐう場面があった。本当に良かったなあ。大関にまでなった人が下からやり直すのは、余人にはわからぬ苦労があるのだろう。すばらしいこと。

 

 

 

▼打ち合わせに行くと、ギターが趣味のM君がいた。やたらとふざけてくる人だ。雑談になったとき、M君は「〇〇(取引先)のSさん、マイクロソフトからヘッドハンティングされたらしいですよ」と、激しく頭を振ってみせた。ヘッドバンギングヘッドハンティングをかけたくだらない冗談だが、全力でエアギターをかき鳴らしながら頭を振るM君はちょっと面白かった。面白かったのが悔しく、つい「そうなんだ」とつれない返事をしてしまった。

 

M君はそれからもめげることなく「ヘッドハンティングって憧れますよねえ。一度されてみたいですよ」と、めげずにヘッドバンギングを繰り返す。私も明るく「それ、ヘッドバンギングやないかーい」などと言えたらいいものの、最初に素通りしてしまったきまり悪さも手伝い、素直になれない。M君はひたすらヘッドバンギングをくり返しつつ、私は一切それに触れないまま時間が過ぎた。

 

M君が疲れたように「もう‥‥いいじゃないすか‥‥。そろそろ言いましょうよ」と言った。M君は何か言うたびにヘッドバンギングをくり返していたので、首が限界だったのだろう。お互い着陸地点が見えなかった。そのとき、扉が開いて隣席のTさんが入ってきた。M君は、再び「Sさん、ヘッドハンティングされたらしいですよ」と、全力でエアギターと首振りをした。Tさんにつっこんでもらえば成仏できる、そんなM君の心の叫びが聴こえるようだった。Tさんは、M君のヘッドバンギングを見ると「チッ」と舌打ちして部屋を出て行った。反抗期の娘が父親に向けるような情け容赦のない視線だった。M君は打ちひしがれていた。舌打ちはいかん。寿命が縮む。

 

以上のように、先週は特に何もない一週間でした。あと、M君の会社はコロナの影響から8月で閉じるそうなので、今月中のヘッドハンティングお待ちしていますとのこと。大変だあ。

 

 

 

▼映画の感想『孤狼の血』を書きました。エログロバイオレンスでした。こってりしたのお好きな方には。