玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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自己紹介

▼引き籠っているので何も起こらない。無である。何かあったかといえば、髪が伸びたので前髪を切ったら、切りすぎたという。日記に書くのもためらわれるぐらいどうでもいい話。私は迷わず書く。私はそれができる男。

 

 

 

コロナウイルスの影響で、周りの人が家にひきこもっている。母も家にいてすることがないらしく、パソコンでYouTubeを観れるよう、いろいろと教えた。違法アップロードの落語ばかり観ているようだ。この状況では、やむなし。

 

使っているのは、どうにかこうにか動く古いノートパソコンで、画面も小さくて観にくいという。「もっと大きいYouTubeを買いたい」と言っている。YouTubeを買うのはビル・ゲイツでも難しいのでは。パソコンのことをYouTubeと呼んでいるが、面白いのでしばらく泳がせておく。「新しいYouTubeっていくらぐらいするの?」と言っていたので、近々、買うのかもしれない。ビル・ゲイツを上回る富豪がいる。遺産として3兆円くれないか。

 

 

 

▼友人の勤める会社では、今年の新入社員は出社せずにビデオ会議で自己紹介をしたという。人との接触8割減が目標となれば仕方ない。

 

自己紹介で少し思い出したことがある。以前いた会社では新入社員に先輩社員の人となりを知ってもらうため、先輩社員たちの簡単なプロフィールをまとめて、自由にそのエクセルを閲覧できるようにしていた。私も、そのファイルに記入するよう言われていたが、徹夜で家に帰れないほど忙しい時期だったのでほったらかしにしていた。総務のY君が「じゃあ、僕の方でささっと書いちゃいますね」と言っていたようだが、適当に返事をしてしまった気がする。

 

後日、朝礼で新入社員の自己紹介を聞きつつ、ボーっと先輩社員の紹介エクセルを眺めていたら、私の紹介欄に「尊敬する人:狩野英孝」と書いてあるのが目に入った。お笑い芸人の狩野英孝さんのことは好きでも嫌いでもないし、あまり考えたこともなかった。なぜY君はそんなことを書いたのだろう。思い当たったのは、Y君と飲んだとき、狩野英孝の話になったことがある。

 

狩野英孝が以前、「AVをまったく観ない」とテレビで言っていた。その理由が「自分じゃなくて、女が他の男とやっているのを観て興奮しているのって、なんか虚しくないですか?」と言っており、驚いた。そもそもAVって、そういうものでしょうよと思っていたが、言われてみればたしかにそんな気もするわけで、意外な着眼点に感心した。自分がその男の立場になるという可能性を狩野英孝はあきらめていない。たしかにY君にそのことを言った記憶はある。だからって、尊敬するのが狩野英孝かといえば、もっと他にいろいろあるだろうよ。

 

普段ならまったくないのだけど、突然、社長が私を見て「おまえ、『尊敬する人:狩野英孝』って書いてあるけどなんで?」と訊くからたまげた。尊敬する人にはまず登場しない名前だから、気になったのかもしれない。Y君が書いたと言うわけにもいかず、本当のことを言うわけにもいかず、しどろもどろになってしまった。「狩野さんはずば抜けた力があるお笑い芸人ではないと思いますが、面白いか面白くないか、自分でもよくわかっていないことでも、とりあえず発言してみる積極性といいますか、自分で勝手にあきらめてしまわずにまず何か行動してみることで、そこを起点に意外なアイディアが生まれることもあるのではないかと思い‥‥」などと適当なことを言った気がする。社長は「そういうこともあるよな!」と、力強くうなづいていた。でたらめなんですけど。

 

Y君は、勝手に狩野英孝と書いた罪で、その日、山に埋めた。