玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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鷹猫問題

▼スーパーへ買出しに。酒屋の隣の犬は私を見ると意味もなく吠えかかり、老人はぶつぶつ独り言をいったかと思うと道につばを吐いた。緊急事態宣言がでようと、町は今日も平常運転。

 

だが、ふと気づけばスーパーのレジでは誰も何も言わないのにお客同士が間隔を1メートルぐらい空けて並んでいた。日常の中の非日常を感じる。ニューヨークでは並ぶときに2メートルの間隔を空けないと罰金1000ドル(約10万円)だとか。

 

せっかく引き籠っているので鋭意、新メニューの開発に取り組む。シンガポールチキンライス、糀を衣に使った唐揚げなどを作ってみる。それぞれ70点、55点ぐらいの味。シンガポールチキンライスはまだ改良の余地がある。次回、85点までもっていってレギュラー入りに期待したい。なにせ層の薄いチーム。卵かけご飯がエースで4番にいる。

 

 

 

▼テレワークに慣れない人は外に出られなくてストレスがたまっているらしい。私は平気だけど。テレビ電話飲み会をやりましょうということで、やる。私は水ばかり飲んでいた。

 

事務方のYさんとテレビ電話で話す。気分がモヤモヤするという話を聞かせてくれた。モヤモヤ収集家としては聞き逃せない。

 

Yさんが同棲している彼女と買い物に行ったときのこと。二人が歩いていると茶トラのかわいい子猫を見つけた。子猫は野良猫のようだったが、辺りに親猫や兄弟の姿はなかったという。Yさんたちが子猫の元に駆け寄ろうとしたとき、上空から小型のタカのような鳥が舞い降りて子猫を抑えつけて攻撃しだした。子猫は、タカの最初の一撃で動かなくなってしまったという。

 

Yさんの彼女は「猫を助けてあげて!」と叫んだが、Yさんはこれも自然の摂理だし、タカも食べていかねばならないのだから「これは仕方のないことだろう」と断った。二人が助ける、助けないで揉めている間に、タカは獲物の子猫をつかんで飛び去ったという。で、そのまま買い物を続けようとしたYさんだったが「こんな冷たい人間だとは思わなかった」と、彼女とケンカになったという。お気の毒。

 

Yさんから「なにか間違ってますかね?」と訊かれる。どうなんだろう。人が助けることが自然の摂理に反するかといえばそうなのかもしれないけど、そもそも子猫に限らず子供はみんなかわいくデザインされている。かわいさゆえに世話をしたくなるのだから、かわいいから助けることも自然の摂理のような。人の行為を自然に含むのか、それとも人の行為は自然からのぞくのか。本当に関わらないことが善と言えるのだろうか。もし人の行為を制限しなければ、いろんな生物が滅びるし、環境も滅茶苦茶になるだろう。でも、人も自然の一部と考えれば何をやってもいいことになる。

 

「でも‥‥ひょっとしたら助けてしまうかもなあ」と言ったところ「え、その後、責任もって飼えるんですか? ケガしてたら病院代も出すんですか? 彼女、パチンコばっかやってるのに。病院代だせるかなあ?」 などと矢継ぎ早にたたみかけられる。Yさんの彼女がパチンコばっかやってるのは知らん。それはあんたが注意しなさいよ。

 

しかし、仮に猫を助けたとするとタカはよそで何かを殺すだろう。結局、猫の代わりに他の命を奪っているので同じような気もする。たしかに自然の摂理のような。

 

 

かわいいから助けるというのは正しいのかな。野鳥のシマエナガはとてもかわいらしい。では、かわいい猫がかわいいシマエナガを襲っていた場合、どうすればいいのか。猫を追い払っていいのか。かわいい対かわいい、である。「かわいい」の袋小路に入り込んでしまい、どうしたらいいのかよくわからない。

 

Yさんに、どうすべきだったかと訊かれて迷ったが一つの方法を思いついた。「襲われている猫を見つけた途端、お腹を抱えてうずくまって『痛い痛い痛い痛ーい! お腹が痛くて動けない!』というのはどうか?」と言った。一切の判断を拒絶するファインプレー。画面の向こうのYさんは一瞬沈黙し、眉をひそめた。「本当にクズじゃないですか‥‥。それは人としてどうかと思いますよ」と、さも軽蔑したように言う。

 

「考えろ」というから案を出したのに。冷静に軽蔑するのやめて。私がその方法をとるとは限らないだろう。とらないとも限らないけど。私なら、やりかねない。

 

Yさんは同棲していた彼女に家を追い出され、今、ホテルから私とスカイプで通話しているという。価値観の違いによって家を失うとは。どちらが正しい、間違っているという話ではないように思うけれど、基本的な価値観が一致してないと一緒にやっていくのは難しいのかもしれない。たしかにモヤモヤした話だった。Yさんはどうしたらよかったのかな。正解を教えておくれ。

 

 

▼映画の感想『ブレイン・ゲーム』『あるメイドの密かな欲望』を観ました。『ブレイン・ゲーム』は『羊たちの沈黙』を思わせるサスペンス。アンソニー・ホプキンスが出ています。『あるメイドの密かな欲望』は1900年頃のフランスの話。女性が生きていくのが大変な時代。いかにもフランス映画という陰鬱な展開ながら楽しめました。始めから終わりまでずっとメイドがいじめられています。