玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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バレンタイン

▼隣席のTさんは先月、メゾネットタイプのアパートに引っ越した。メゾネットがよくわからない。ついでにロフトもわからない。室内が区切られておらず、ハシゴがあって二階部分があるのがロフトなのかな。メゾネットは階段があり、一階と二階が明確に区切られているらしい。Tさんによると、メゾネットはロフトの上位であり、メゾネット民となったTさんはこれからどんどんロフト民を見下していくのでよろしく、だそうです。知らんけど。

 

そんなTさんからバレンタインデーにキャラメル菓子をもらう。キャラメルをクッキーでサンドしてある。美味しそうだし、せっかくだから一緒に食べましょうと言うと喜ぶTさん。「そう言うと思って、自分が食べたいのを選んだんです」ちゃっかりしておる。

 

で、美味しい美味しい言いながら、キャラメルサンドを頬張っていたら、ふと口の中に違和感を覚えた。嫌な予感がして、キャラメルサンドを吐き出すと、1年程前に奥歯に詰めたセラミックがとれていた。「ハ、ハガトレマヒタ‥‥」と情けない声が出る。Tさんは「ヒーッ! ヒッヒッヒッヒ! おじいちゃん!」と、魔女のような笑い声をあげた。許さん。

 

帰路、Tさんを山に埋め、歯医者に寄って帰る。取れた歯はまだ使えるそうで、接着剤で固定して無事に治る。キャラメルを食べたら歯がとれたというのが子供のようで恥ずかしく「食事をしたらとれました」と嘘をついてしまった。

 

 

 

▼パワハラやセクハラの講習を受けたとき、こういったことをしてはならないということは教えてくれる。どれも当然のことだけど、なぜ人はいけないと知りながらもそういった行動をとるかは語られなかった。

 

 

BSプレミアムの『英雄たちの選択』にちょくちょく出る中野信子さんの著書『ヒトは「いじめ」をやめられない』は面白かった。人がなぜいじめに走るのか(これだけがすべてというわけではないですが)が書かれている。ここに書かれていることを受け入れられない人も多いだろうなと思う。

 

相手への信頼感、親近感を感じたときに分泌されるオキシトシンというホルモン。このホルモンは共同社会づくりには欠かせないものの、仲間意識を高めすぎてしまうと妬みや排外感情も同時に高めてしまう負の側面も持ち合わせている。もっとも愛情深い人間が、もっとも苛烈で非道ないじめをすることもありうる。

 

人は時として理性より情動をとってしまうことがあり、してはいけないと思いながら浮気をするし、いじめだってする。残念なことに、いじめが快楽という場合も存在してしまう。いじめがいけないのは当たり前でわかっているだろうけど、オーバーサンクション(過剰な制裁)を行う可能性が誰にでもあるということを自覚しておくほうが重要に思える。

 

児童虐待のニュースがしばしばありますが、動物の世界では子殺しは珍しくない。ライオンや猿の子殺しは有名で、オスは自分の遺伝子を残そうとしばしば子殺しをする。虐待はいけないと教えることも重要だろうけど、人も動物で、そういった残酷な気持ちになることがあるかもしれない。そんなとき、相談窓口はここにありますよ、というほうが児童虐待の件数も減るのではないか。私たちは残酷な存在で、それを認めることで少しだけ前に進めるように思うのだ。