玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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青い便箋

▼元ヤクルト、阪神、楽天の監督野村克也さんが亡くなった。鋭い観察眼での辛口の批評、愛嬌のある人柄が好きだった。野村さんというと野球界への多大なる貢献もそうですが、野球以外でも視野が広く優しい人だったように思える。野球を辞めてからの人生のほうが長いのだから、選手に本を読むよう薦めて人間的な成長を促している。サッチー(奥さん)の経歴が嘘だらけで、野村さんもだまされていたことについても「それだけ自分と結婚したかったのだろう」と語っている。だまされたことに対する恨みはなく、懐の深い人だった。また一人、好きな野球人が逝ってしまった。

 

 

野村さんの本を読むのなら、技術についての話は『野村ノート』がいいと思います。あとの本はもう、なんというか、ご本人も認めているとおりタイトルが違うだけで内容がほとんど同じなんですよねえ。野村商法。

 

 

 

▼部屋を掃除していたら白い封筒が出てきた。中に入っていた青い便箋には小さく丸いかわいらしい文字が並んでいる。便箋の下のほうには血が飛び散ったような跡が何滴かついていた。大学時代に好きだった子からの手紙だった。よくこんなもの取ってあったなと驚く。私が手紙で告白して、その返事だった。手紙て。重い感じですけども。当時はギリギリありだったような‥‥。ありだったんです! 誰への熱弁か。

 

彼女には付き合っている人がいてフラれたのだけど、なんだかすっきりしないのは「女は受け身の立場だし、一回断られたぐらいであきらめちゃ駄目」みたいなことが書いてあった。フラれたのはいいとして、つまりこれはどういうことなのかと悩んだ。脈があるのか、でもはっきり彼氏がいると書いてはある。暗号か、これは。現代国語の成績は良かったはずなのに、そんなものは女心の前ではまったく無力。簡単な日本語の意味がわかりません。当時、女性との交際経験もまったくないわけで目まいがした。

 

悩んだ私は、バイト仲間で年上の女子に相談してみた。でも、無駄にプライドが高いので「実は友達がこういう手紙をもらって困惑しているんだけど、女性の立場から見てどう思う?」と、友達のことという嘘をついて訊いてみた。彼女はすばやく手紙に目を通すと「脈があると思いたいのかもしれないけど、どうせキープ扱いにしかならないし、こんなこと書く子はやめたほうがいいんじゃない? あんたにはちょっと手に負えなさそうだけど」と言った。

 

友達のことという嘘は3秒で見抜かれていた。動揺した私は彼女から手紙をひったくるように取ると、お礼もそこそこに走り出したと思ったら板場の巨大な冷蔵庫に激突、鼻血を出してぶっ倒れたのだった。口の中にひろがった血の味がよみがえるような心地がした。今、手紙を読み返してみたのだけど、20年経ってもやっぱり意味がわからない。女心は暗号。これ、私が人間として何も進歩してないのでは。

 

 

 

▼映画の感想『MR.ROBOT / ミスター・ロボット』を書きました。ハッカーのドラマ。面白かったです。