玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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甘味をキメる

▼タコ焼きパーティーは昼に開催され、午後4時には解散となった。車に乗せてもらったYさんに帰りも同乗させてもらう。行きは車中でYさんが歌うワム!の『ラスト・クリスマス』を死ぬほど聞かされたわけだが、帰りはそんなことはなかった。平和。

 

彼女はダイエットを続けており、二週間に一度だけ好きな物を食べていいというルールを設定しているとか。今日がその日だったのだ。だからタコ焼きを食べ、帰りには大好きな甘味をキメるという。「甘味をキメる」という言葉を初めて聞いた。キメるといえば覚醒剤やっている方がよく使う言葉ですけども。二週間前から、甘味を食べるのが楽しみで楽しみで、甘味のことを考えると脳汁がドバドバ出てたんですよ、ウヘヘヘヘ‥‥と笑うYさんはまさにシャブ中ならぬ甘味中の女。おまわりさん、コイツです、としか。

 

Yさんは甘味をコンビニで買う予定だったらしい。そんなことでいいのか、甘味中毒者がコンビニスイーツで済ませて。ほら、おまえが欲しいのは、もっと純度が高い上物じゃないのかあ? ま、甘味なんですけど。

 

どこか行きたい店はないのか訊いてみると、前から気になっていた甘味処があるという。帰り道だし、車に同乗させてくれたお礼もあるし、その甘味処に寄ることに。Yさんは白玉が載った抹茶アイスを注文していた。私も同じ物を頼んでみる。Yさんといえば注文を終えて、ソワソワと落ち着かない様子。「楽しみ過ぎて、ほら、見てください。震えてきちゃいました」と、腕を組んだ両肩がかすかに震えている。これはまさしく禁断症状。本物の中毒者では‥‥。

 

そして抹茶アイスはやってきた。白玉のもちもちとした食感と宇治抹茶の芳醇な香り、とても美味しかった。甘い物が好きな人にはたまらないかも。甘い物は嫌いではないけど私には少しだけ甘すぎた。Yさんを見ると、目の前に運ばれた抹茶アイスをじっと見詰め、スプーンですくうと無言で食べ始める。口に白玉とアイスを含むとゆっくりと咀嚼し、その感触を楽しむようにうっとりと目を閉じている。しばらくすると虚脱したように深いため息をついた。キマッている。これが甘味中の女。目を見開いたYさんは饒舌に抹茶アイスの作り手を賛美し、甘味のすばらしさを賛美し、最後には甘味を作り出した人類を賛美した。完全にキマッてんな、おまえ、と思いました。

 

ともあれ、人が嬉しそうに食べるのを見るのはとてもいいもの。