玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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歌う女

▼仕事でお世話になっている方たちのタコ焼きパーティーへ。私の家の近くを通るというYさんに車で拾ってもらう。仕事では彼女とは接点がなく、あまり話したこともない。それなのに快く私を乗っけてくれるとは。ありがたい話。

 

Yさんの車に乗せてもらうと、ワム!の『ラスト・クリスマス』が掛かっていた。年末からCD入れ替えてなかったのかな。しかし、なぜ今、ワム!なのか。ワム!が大好きなのか。挨拶もそこそこにYさんは『ラスト・クリスマス』を熱唱するのだった。これは聴いていればいいのだろうか。私も一緒に『ラスト・クリスマス』を歌うべきなのか。謎は深まるばかり。

 

曲が終わると、Yさんは今度はアカペラで『ラスト・クリスマス』を歌い出す。好きなのだな、『ラスト・クリスマス』が。全然ラストじゃない。私専用のリサイタルが開かれている。ところが先ほどと違って曲が流れていないので、歌詞が滅茶苦茶で、さびの『Last Christmas, I gave you my heart』以外、みな適当な嘘英語なのだった。さびのラストクリスマス部分になると俄然ボリュームが上がって自信たっぷりになり、後は自信なさげに「ナナナナ~‥‥」とごまかすというのを見せつけられた。

 

Yさんは『ラスト・クリスマス』を歌い終えると、またしても頭から歌い出すのだった。ラストというかエンドレスではないか。「また歌うんかい」と言えるほど親しいわけでもないので、私もとりあえず一緒になって歌ってみた。だが、私も冒頭のラスト・クリスマス~部分しか歌えないわけで、あとは必死に「ナナナナ~」でごまかすしかなかった。そんな『ラスト・クリスマス』を何度か繰り返し、信号で止まったとき、Yさんは私のほうに向きなおると「ラスト・クリスマス、好きなんですね! 何回も歌いたがるから」と言うから驚いた。「いや、おまえだろ」と思いましたけど。目的地に着くまで、私たちは壊れたCDのように『ラスト・クリスマス』を歌い続けた。なぜ。

 

 

 

▼NHK-BSでやっている『球児苑』という野球番組を観る。渋い番組なのだ。テーマは9番打者だった。何打席以上が対象かわからないけれど、9番打者としてもっとも打率が高いのが元巨人の桑田投手だった。桑田さんへのインタビューが面白かった。

 

投手だから桑田さんはほとんど打撃練習はできないわけで、少ない打撃練習の時間は課題をもって取り組んでいたという。来た球を「ゴロ」「ライナー」「フライ」と口に出して打ち分けてみせる。次は「ファーストゴロ」とか「サードゴロ」とか、場所を指定して打ち分けてみせる。基本的なことだろうし、簡単そうにやっているがこういうことが大切なのだろう。素振りをがむしゃらに千回やれば手の皮はむけるし、疲れるし、練習した気になるかもしれないが、それは自己満足にすぎなくて、本当は具体的に課題を設定して練習しないと上達しないのかもしれない。そんなことを教えられた気がする。

 

同じことをやるにしても、正しい方法でやらないといけないのだろうなあ。以前、何でみたのか忘れてしまったがヤクザの若頭か何かが、テレビCMをボーっと見ている若い衆に「おまえたちは、ただCMをボーっと見ているから駄目なんだ。ここから、どうやったらゆすれるか考えなさい」と言った話があった。できる人というのは必ず何か考えて工夫している。

 

ところで二つ目のヤクザのたとえ、いりますか? 桑田だけでよかった。

 

 

 

▼映画の感想『ワンダー 君は太陽』を書きました。顔が崩れて生まれてきたオギーとその家族の物語。いいといえばいいのだけど、同じようなテーマに『エレファント・マン』のような重厚な作品があり、その重厚さに比べるとあまりに軽く映るというのはあった。もちろんこの映画はこの映画でいいのだけど。