玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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責任感の暴走

▼業務トラブルで新年早々の呼び出し。お正月から始まるサービスに設定ミスがあり、サイトが正常に動作していないとのこと。私の設定ミスか、依頼者の書いた設定用紙が間違っていたか、どちらが原因かはわからない。会社に到着したときには、森で一番賢いゴリラことゴリラ部長を始め、4,5人のスタッフがいた。いや、もう皆さん、お正月というのにねえ、本当にご苦労様でございます。ゴリラ部長から「お、犯人が来たぞ。坊主にしろ、坊主に」などと言われる。今年初のパワハラを受ける。私がミスしたとは決まっていないのだけど。

 

ミス自体は単純なもので、到着次第すぐに直せるものだった。設定を依頼したメモは、私が依頼者であるKさんに返したと思ったが、Kさんは持っていないという。ミスは起こるものだから仕方ない。その場で業務フローの修正も行い、同じミスが発生しないように手順を変更した。作業が終わった後におずおずとKさんが「メモ、ありました」と紙を差し出した。ルーズリーフに挟まっており、見落としていたという。彼女が書いた設定に誤りがあった。

 

先ほど、頭を丸めろと言っていた人、この休みに出勤させやがって、と言っていた人、私に一言何かあるでしょうよ。あーん? ゴリラ部長はKさんに「業務フローの修正は行ったし、今後は気をつけるように。な?」と言い、私を見るのであった。「な?」じゃないんだよ。これでいいだろ? 的なものを出すな。おまえこそ坊主にしろ。バリカンを買ってこい。

 

駅までの帰り道、Kさんは私に謝りっぱなしだった。ホームで電車を待つ間も、ずっとうなだれている。開き直られても困るが、それほど大したミスではないのだ。責任感がないよりはいいけれど、あまりにも背負いすぎるというのも困りもの。休み中に同僚を出社させてしまった申し訳なさも大きいのかもしれない。

 

「じゃあ、もうビンタしかないな」と冗談を言ったところ、Kさんは顔を上げて「はい!」と返事をするやいなや、思いっきり自分で自分の頬を引っぱたいた。バチーンという激しい音がホームに響き渡った。そのビンタはなかなか激しいもので、『ガキの使い』で蝶野選手が山崎邦正にやるような、ちょっと脳が揺れるやつだった。なにその勢い。勢いがありすぎて、よろめいたKさんを支えなければならないほどだった。突然のことに「ちょ、ちょっと、あーた、何やってるの!?」とデヴィ夫人みたくなってしまった。

 

頬を抑えてうなだれるKさん。振り返る人たち。これ、完全に私が叩いたことになってないでしょうか? いや、なっとる。人間のクズを見るような周囲の目。待て待て待て待て。叩きませんよ、そんな、20代前半の女の子を。叩いていいのは30から。30以上はふてぶてしくなるから、もう何をやったっていいんだ。

 

「冗談でもそんなことしちゃ駄目だよ」と言うと「でも、いいんです‥‥。これでスッキリしました。また仕事がんばれそうです」と微笑むと、彼女はホームに入ってきた電車に明るく乗り込んでいった。

 

取り残される私。たしかに君はそれで気が済んだかもしれない。でも、いろいろと考えてみてほしい。正月早々、女の子をビンタした奴、みたいな目で見られている私のことを。私は無表情で1月の澄み切った空を眺めた。居場所がない。

 

 

 

▼映画の感想『PRODUCE 101 JAPAN』を書きました。アイドルになるためにがんばる101名の練習生に密着したリアリティ番組。面白かったです。