玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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オムレツ

▼梅雨入りした。

 

仕事道具の購入。帰りに休憩したかったが適当な喫茶店が見当たらない。一軒だけカフェがあったがどうもお洒落すぎるのだ。同行したN氏と店の前で相談する。「どうもこの店は我々にはお洒落すぎるのではないか」「おっさん二人ではきつい」という結論に達したものの、雨の中、他の店を探すのもしんどいので入った。まあ、他に客もいないしよいではないか。

 

N氏はコーヒー。私はお腹が空いたのでオムレツセットを頼む。私がオムレツを食べるのを見て「なんでそんなかわいいもの頼むんだよ。生きている牛の手足をもいでナマで食えよ」と言うN氏。だが、しばらくすると「オムレツおいしい?」などと言いだす。べつに一口上げるのはかまわないが、おっさんがおっさんにオムレツを上げている図が相当不気味なのではないかと思う。結局、N氏もオムレツセットを注文。おまえ、牛の手足をもいで食うんじゃなかったのか。

 

二人掛けのテーブルは小さく、オムレツセットのトレイを二つ置くとはみ出てしまう。おっさん二人が縮こまってトレイを落とさないように慎重にオムレツを食べていた。おいし。と、そこへキャリーバッグを引いたスーツ姿の若い女性が8人ぐらい入ってきた。私たちの隣の席に座ると賑やかに話し出す。おっさん二人がオムレツセットを向かい合って食べているのがおかしいのか、チラチラと視線を感じる。

 

N氏はその空気が堪えがたかったのか、誰に言うでもなくつぶやきだした。「でも、この店はあれだな、前の店と比べると卵のとろけ具合が絶妙で熱の入り方がちょうど良くて、次、特集に載せても‥‥」どうやら取材に来た記者という設定にしたいらしかった。さすが私以上の自意識過剰人間。そうなると邪魔をしてやりたくなるのが人情である。

 

「どうした、急に記者みたいなことを言いだして。オムレツ美味いか?」と言うと、とても凶悪な人相で私を睨むのだった。

 

いいことをすると気分がいい。

 

 

 

▼幽霊文字という言葉を初めて聞いた。などがそうで出典もわからず読み方もないが、なぜかJIS基本漢字に入ってしまっているもの。誰にも使われない字が、みんなの(といっても日本語圏だけど)パソコンに格納されているというのは何か怖くて不思議な感じがする。太平洋のど真ん中で、誰にも知られてないのに大雨が降ってやんだり、自分の死後もなにごともなく続く世界を想像するときのような漠然とした不安感を感じませんか。そうでもないですか。あ、そう。

 

 

 

▼映画の感想「群盗」「エベレスト」を書きました。「群盗」は痛快娯楽時代劇でとても面白かった。悪役のカン・ドンウォンがかっこよすぎる。お薦めです。「エベレスト」は1996年に実際に起きた大量遭難事件を基にした作品。うーん、重苦しい。