玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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お祝い

▼今年の抱負も、例年のごとく「死なない」であるが新年から風邪を引く。死ぬる。抱負に背かないためにも生きねば。とにかく咳が出てねえ、眠れないからまいった。体を横たえると咳き込みやすいということに気づき、それからは座椅子でうとうとしていた。座椅子は寝返りが打てないから体中が痛い。朝、ようやく少し眠れる。

 

今までなるべく薬を飲まずに生きてきた。薬を飲みすぎると、いざという時に薬が効かなくなるのではと思ったからだ。本当のところは知らんけど。もうねえ、今回こそは咳止めを飲むべきだと思いましたね。二日、眠れなかったので。この日のためにできるだけ薬を飲まずにきたのだ。わはははは。医者からもらった苦い咳止め粉薬を飲む。良薬は口に苦しかな。だが、これで大丈夫。

 

と、思ったら、薬まったく効かないじゃーん。咳が止まらず、背中や腹も筋肉痛に。死ぬる。今まで薬飲まなかった痩せ我慢てなに? 無駄?

 

 

 

▼年末、引っ越したばかりという家に招待された。仕事でお世話になっている会社の人である。やや古めの日本家屋を借りたという。若いのに、昭和の香りがするところに憧れるのかなあ。庭もそれなりに広い。洗濯物を干すだけでなく、ちょっとした畑もできるし、うらやましい。

 

インターホンを押すと、招待してくれたAさんがモニター越しに対応してくれた。通話を終えたのだけど、インターホンが切れないで音声が聴こえたままでいる。AさんとAさんの奥さんの会話が聴こえる。「しゅんさん(私のこと)、来たよ」「その人、誰だっけ?」「残り少なくなったリップクリームを爪楊枝でほじって使う人」「ガス代がもったいないから、ソバとかうどんは全然食べなくて素麺しか食べないんだっけ?」「そうそう」などと笑い合っている。そんなわけあるか。素麺しか食べないのは、私の叔父の話だ。ちなみにリップクリームは最後まで使う。さすがに外では使えないけど家では楊枝でせせって使うじゃん。ま、まさか、みんな使わないのか。石油王なの‥‥?

 

しばらくするとAさんが出て、にこやかに出迎えてくれた。引っ越したばかりでよくわかってないのだろう。インターホンが切れてないことを伝えたものか迷う。しかし、それも盗み聞きしていたようで具合が悪い。してたけど。迷ったすえに何も言わないこととした。

 

敷居があって、玄関には三和土があり、田舎の農家のような趣。建物の梁の一部は、荒々しく木がむき出しになっている。磨き込まれた木の廊下が美しい。歩けばミシミシと木の軋む音がして、木の香りが爽やかな気持ちにさせてくれる。気持ちのいい家だけど、手入れも大変そうだなあ。

 

ほどなく、一緒に仕事を請けているN氏も到着した。N氏は引っ越し祝いの手土産といって、30センチほどもある木製の人形を取り出した。地元の民芸品屋で見つけたという。右手は挨拶をするように肘から直角に上がり、反対に左手はひじからぶらんと垂れ下がっている。表情が描かれておらず、何か不気味な雰囲気を漂わせている。謎のチョイス。なぜこれを引っ越し祝いに。

 

Aさん夫婦はちょっと困ったような反応だった。それはそうだろう。引っ越したての家に、なぜこんな気味悪い人形を飾らなければならないのか。私なら嫌だ。Aさんは何を言うのかと思ったら「‥‥いやあ、個性的でいいですね。僕、こういうの好きで探してたんですよ」と言うから驚いた。嘘をつけ嘘を。どう見ても呪いの人形だろうが。魔女が誰か呪いたいときに使うやつだと思いますけど。

 

Aさんはさすが営業である。笑顔をたやさずに軽やかに対応していた。奥さんは、なにこの気持ち悪いの! こんなの飾るの絶対嫌! って顔してましたけど。それが正しい反応。

 

N氏の度胸には恐れ入る。私など人に何かを贈るとき、無難な消え物ばかり選んでしまう。食品ならば、最悪その人が気に入らなくても誰かに上げてしまうこともできる。N氏は本当に攻めるなあ。攻めるというか、どっかおかしいのかもしれない。昼には奥さんお手製のスパゲッティをいただきました。普段、素麺しか食べてないと思って作ってくれたのかな。いいお宅でした。

 

 

 

▼映画の感想「二ツ星の料理人」「黄金狂時代」を書きました。「二ツ星の料理人」はブラッドリー・クーパーがかなり面倒くさいシェフになっています。「黄金狂時代」は1925年のチャップリンの作品。1925年か~。