玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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ダイエッター

▼隣席のTさんが新しいダイエットを始めた。今度のは酵素が入ったラテだという。彼女が周囲にしつこく薦めていたホットヨガブームは過ぎ去った。ホットヨガと結婚するかと思っていたのに。ダイエッターにとって失敗したダイエットは昔の男のように扱われる。そんなものは最初から存在すらしなかったのだ。

 

ダイエットは数限りないほど種類があるわけで、数限りないということはそれだけ失敗しているようにも思える。どうやったら痩せるかはよくわからないのだけど、単純に考えれば摂取カロリーより消費カロリーを多くすればいいはず。ということは、食事量を減らして運動するだけで痩せる。もっともシンプルな回答にたどり着かないのが、ミステリーのトリックのようで面白い。

 

Tさんはダイエットというのは、なんらかの新しい方法でやるものと決めつけており、食事を減らして運動など今更すぎて頭に浮かばないのかな。目の前に答えはあるのに。マスコミが煽るからというのもあるかもしれない。商売だから、新しい方法を見つけてくるのだろうけど。

 

ラテダイエットも失敗するだろう。だが、ダイエットを趣味と捉えると成功しているのかもしれない。新しいダイエット法という楽しみを次々に見つけているのだから失敗に見えて成功ではないか。もし、仮にダイエットが成功してしまうと新しいダイエット法を試す楽しみは奪われてしまうのだ。これは大きな失敗ではないか。つまり、失敗こそ成功であるという。

 

「次から次へと新しいダイエットが試せていいな~」というと、皮肉と思ったのか怒られる。素直に思ったことを口にしたのに。日本語の難しさに直面している。

 

 

 

▼今日の歴史ヒストリアで取りあげた今川氏真(うじざね)が興味深い。歴史ファンの間では長らく暗君として扱われてきたように思う。父・今川義元は海道一の弓取りといわれ、いっときはもっとも天下に近かった。だが、義元は桶狭間の戦いで織田信長に敗れて討ち取られてしまう。息子の今川氏真に注目が集まることは少なかった。

 

 

桶狭間で父を殺された氏真は、母である定恵院から父の仇討ちを勧められるが自信がないのか戦を起こさないんですね。まずここが普通の武士と違って面白い。当時は戦国の世ですから氏真の弱気な態度に三河の国人たちは離反していく。桶狭間では今川の指揮下で戦った松平元康(のちの徳川家康)も離反して織田と結ぶ。

 

今度は家康は織田の手先となって攻めてくるが、家康は氏真に「氏真と家臣の命は保証するから城を明け渡せ」と要求する。かつての配下・家康からの屈辱的ともいえる要求なのだけど、氏真はこれを受け入れるんですね。「城を枕に討ち死にだ!」とはならない。奥さんの早川殿の実家である北条を頼る。北条の庇護により安寧に暮らせるかと思いきや、やがて北条氏康が死去。後を継いだ氏政は武田と結ぶ。武田が氏真の命を狙い、氏真は北条を出て今度は家康を頼るのだ。

 

これがすごい。家康は幼少の頃は自分の家に人質としていたわけで、普通ならばどうしても見下してしまいそうである。桶狭間では父の配下となって戦い、その後は信長と結んで今川を攻めてきた。さらに城を明け渡せと屈辱的な要求までしてきた。その家康のところに行って、なんとかしてくださいというのだからプライドも何もあったものではない。バカ殿なのか、大物すぎて既存の物差しでは評価できないほどの器なのか。家康も懐に飛び込んだ窮鳥を殺すに忍びないと思ったのか氏真を受け入れる。

 

家康は家康で、しばらくすると三方が原の戦いで武田から完膚なきまでに叩きのめされる。危機感を覚えたのか、今度は氏真は信長を頼る。信長といえば父を殺した仇なのだ。この人はいったい何を考えているのだろう。で、信長に取り入るために今川家に伝わる家宝の香炉まで進呈しているのだ。信長は、氏真が得意という蹴鞠をやってみせてくれと所望する。氏真は貴族たちと信長の前で蹴鞠を披露して気に入られる。

 

氏真はまったく武士に向かなかったのだろう。家康から任命された牧野城主もわずか一年ほどで解任されている。戦には興味がなくて(長篠の戦で武田の重臣・内藤昌豊を配下が討ち取ってはいるが)本人も文化人として生きたかったのかもしれない。親の仇も討たず、その仇である家康や信長に頭を垂れるというのが奇妙というか不思議なのだ。今でも理解に苦しむのだから、当時は変人扱いされただろうし見下されただろう。実はずいぶん進んだ感覚を持っていて、そんなことは戦国の世の習いだから恨むほどのことではないと割り切っていたのだろうか。氏真は変わった句を詠んでいる。

 

なかなかに 世にも人をも恨むまじ 時にあわぬを 身の咎にして

 

(もう世の中も人も恨んでいない。時代に合わないのはわたしの罪である。)

 

人を恨まないのはある種の才能で、尊敬すべきことのように思える。氏真は教養があるので息子たちに教育を施し、息子たちは二代将軍・徳川秀忠に仕える。のちに今川家は儀式を司る高家の役職に就く。関が原と大阪夏の陣を終えて武の時代は終わり、文化の時代が来たのだ。面白いのは戦国の覇者と目された信長や信玄は滅びたものの、氏真は77歳まで生きて天寿をまっとうする。今川の家は絶えずに続いた。明治維新になっても朝廷とのパイプ役として明治政府で役職を得る。戦国の世ではまったく活躍しなかった氏真だがしたたかに生き抜いていたのだ。

 

 

 

▼ゲームの感想「クリプトアイランド 輝石の四重奏」を書きました。PC・スマホのパズルゲームです。面白いものの、サービスの早期終了が多いベクターが運営している。中国や韓国のコンテンツを買ってきて、ささっとサービスしてすぐに終了が多い。商売とはいえゲームに対する愛情が薄いように思うのだ。性格が悪くて話が面白い知り合いのようなものである。本当に信用していいのか。変なことに悩みつつ、やっています。