玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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山の日

▼冷蔵庫の野菜室に青虫がいた。先日買った小松菜についていたのだろう。こんな冷たいところでも生きていけるのか。箸からベランダの植木に移してやろうとしたが、箸の先にくるんとしがみついて、葉っぱの先に移ろうとしない。引き離そうとするが、意外な力強さに驚く。そもそも虫が苦手だったのだけど、よく見るとかわいい気もする。

 

古典の「堤中納言物語」に「虫愛ずる姫君」という短編がある。着飾ったり、化粧をすることに興味がない変わり者のお姫様の話。周りの者が「気持ち悪い虫なんかに興味を持つのはやめなさい」と諫めても「みんなが着ている服だって蚕から取り出された絹だ」と鮮やかに切り返す。昔にも、こんな伸びやかな文学が成立していたのだなと嬉しくなる。

 

 

土用の丑の日だった。鰻を買おうかどうしようか迷う。天然物は養殖の倍ぐらい値が張る。天然か養殖か。ふと、現代人などみな養殖のようなものだと思う。安全なところで守られてぬくぬくと育ってきた。そもそも生き物を食べるのに、優劣をつけるのもなんだか品のない話である。結局、プリンを買って帰った。プリンは天然とか養殖とかうるさいことを言わないから偉い。

 

 

▼8月11日に「山の日」という謎の祝日が出現している。恐ろし。知らないうちにいつの間にか休みができている。なんだこれは。どういうことだ。まさか他にも、わたしの知らぬ祝日が出来ているんじゃないだろうな。そんな恐ろしいことが起こっているんじゃないだろうな。許さんぞ。カレンダーを確認した。何も増えてなかった。アホか。

 

まんじゅう怖いとか、知らんのかな。なんのために派手に怖がったと思っているのか。

 

しかし、どうせ祝日増やすならお盆のところは全部休みにしてしまえばいいのに。あんな暑くては仕事も何もできなかろうと思う。お世話になっている会社に行ったら「今日、クーラー壊れてるんです」と言われてしまった。

 

それを知っていたら来なかった。わたしがなんのためにこの会社に来るのか、まるでわかっていない。