玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

このブログの内容はすべてフィクションです

Tシャツ

▼一緒に仕事を請けているN氏の家へ。N氏は胸に「TOKYO」と印刷されたTシャツを着ていた。「NEW YORK」とか「LOS ANGELES」とか、アメリカの地名Tシャツのパロディとしての「TOKYO」Tシャツなのだろう。胸にでかでかと印字されたTOKYOの文字は、勘違いした東京の人間を小バカにするようだ。このシャツを、子豚のような体型のN氏が着ていると、東京の人間の優越感をあざわらう芸術表現のよう。

「いいTシャツですね」と褒めると、N氏は嬉しそうに入手の経緯を語り出した。聞いているうちにですね、N氏はギャグとしてではなく、本当にかっこいいと思って着ていることに気づいた。でも、本人が気に入っているなら問題ない。「ふざけて着ているのかと思った」というと怪訝そうな顔をした。

秋葉原の裏通りで、怪しい外国人から買ったという。「コノシャツハ、アナタニキラレルタメニ、ツクラレマシタ! ニアウ、ニアウ」と絶賛されたそうだ。だまされている。本当なら一着三千円のところ「アナタハ、ニアウカラ、サンマイナナセンエンデイイヨ」と、三着も買ったという。とんだ詐欺師である。懲役に行かせたほうがいい。

「正直なところ、このシャツどう思う?」と、あらためて訊かれる。「自分が気に入ってるならいいと思う」と答えるが納得しない。「本当のところどう?」と、しつこい。「どんだけ東京にあこがれてんだよ、とか言われそう」と答えたら、落ち込んでしまった。「ニアウ、ニアウ」と慰めると首を絞められた。やめろ、わたしのTシャツが伸びるだろうが、東京あこがれ野郎め。

▼舛添都知事が21日付けで辞職願を提出した。

ここしばらく政治家や官僚が書いた本を読んでいた。どうやって政治家の力量を評価したらよいかというのが前からの疑問だった。結論からいうと評価などできないのだと思う。amazonで本や映画の感想を読むと、まったく見当違いなものにぶつかることがある。評価する側も、ある程度読んだり観たりしていないと評価そのものができない。政治も同じかもしれない。国は国民以上の政治家を持ちえないという言葉も、それを示すのだろう。

政治家の評価を一般人がすることはかなり難しいことになる。みんながみんな政治に関わる仕事をしているわけでもない。判断するに足る知識と情報が足りない。政治家の回顧録などを読むと、政治判断にはあまりにも複雑な要素が多い。当時は国民に明かされていなかった情報もあったり、また現在でも明かすことのできない機密指定のものがある。情報が揃わないということが、まず正確な評価を妨げる。限定された情報の中で、かつ国民の側も勉強し続けなければならない。だから完全な評価など不可能で、かといって全部あきらめて投げ出してよいかといえば、そういうことでもないのだけど。とにかく勉強し続けなければならないのだという、ごく当たり前のところに落ち着いた。

N氏は怒っている。舛添都知事の辞職に怒っているわけではない。アダルトビデオに怒っている。N氏の観た「高級旅館の女将のおもてなし」みたいな作品には、タイトルのとおり当然女将が出てくる。女将は和服を着ており、真っ白な足袋(たび)を履いている。本来なら「足袋を脱がして」といわねばならぬところを「靴下を脱がして」といってしまった。

「信じられるかオイ! 旅館の女将が靴下て! はぁ~、本当に教育ってのは大事だな。なんのために勉強するのかわかってない!」とたいそう怒っていた。AVに出るためじゃないと思うけど。

わたしもN氏も勉強が嫌いながら「勉強や教養は大事」という結論で一致した。今後は、足袋を靴下といわないAV女優を目指していきます。