玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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▼傘が壊れた。元同僚からもらった傘だった。彼はわたしより5つほど年上で、兄のように慕っていた。何か問題が起きたとき、彼ならばどのように考えるか、答えを想像してみることがあった。彼の言いそうな答えは思いつくものの、どうしてその答えになるか、答えまでの過程がわからない。じっくり考えると、過程が見えてくることがある。それは貴重な助言だった。

だが、わたしの頭の中で彼の考えを再現しているだけだから、答えが正しいかはわからない。父が亡くなったときもそうだったが、生きているときよりも死んでからのほうが、こういった対話が増えたように思う。彼の形見ともいえる傘が壊れたことで、彼を思い出す回数も減るのだろう。いつか、この友人のこともそっと忘れてしまって、わたしは自分が何を忘れたかすら意識しなくなってしまうのかもしれない。

もっとも、わたしが忘れたからといって怒るような人間でもない。いつものように、にこやかに微笑んでいるだけだろう。だからこそ、忘れてしまうのがさびしい。

▼図書館へ。島田荘司の棚を見たら見覚えのないタイトルがある。「新しい十五匹のネズミのフライ ジョン・H・ワトソンの冒険」。中をめくったところ、ホームズ物のようだった。島田荘司のホームズ好きは有名だ。島田荘司御手洗潔シリーズはホームズの影響を大きく受けている。御手洗・石岡の関係はそのままホームズ・ワトソンの関係に似ている。

そうかそうかと合点がいった。コナン・ドイルが死んでから80年以上経つわけで、いくら待とうが新刊は出ない。出なければ自分で書いてしまえばいいと、島田荘司は思ったのだろう。実はここに一番驚いた。読みたい物語がないときは自分で書けばいいのだ。当たり前のことだけど、どうして今まで気づかなかったのだろう。だから二次創作とか同人誌とかが存在するのだろうけども。いやあ、気づかなかったなあ。

実際に書いてみたら面白い。ひょっとすると、書くのは読むより何倍も面白いのではないか。さらに自分が書いたものを読んで、アヒャアヒャ喜ぶこともできる。喜び方をどうにかしたい。とはいえ、一粒で二度おいしいとはこのこと。新しい趣味が見つかった気がする。