玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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見知らぬ町

▼用事があって子供の頃に住んでいた町へ。用事が思いのほか早く済んだので、ぶらりと歩いてみる。知り合いの大部分は越しており、残っている人間はほとんどいない。町も様変わりした。団地にはエレベーターが付き、駐車場も増え、小ぎれいになった。ゴミ捨て場も、コンクリートの屋根に金属の扉がついたものではなく、ネットをかぶせるタイプになってしまった。以前の方式だと、子供がゴミ箱の上を飛び移って、追いかけっこをしたものだけど。危ないから変わったのかな。店舗もほとんどが入れ替わり、知っている店は少ない。

もう「わたしの町」とは言えないのだろうなあ。車で急にここに降ろされても、どこだかわからない。子供の頃は、町の大部分に行ったことがあった。勝手に畑に入ったり、人の庭に入って近道したり、破れたフェンスから貯水池に侵入したり、それはそれで問題があるものの、町の大部分を把握している気になっていた。もう見知らぬ町である。あまり感傷的なほうだとは思わないが、物悲しい気分になった。思い出というのは、建物に宿るのだろうか。

交通量の多い通りにはおしゃれなカフェや美容院が立ち並ぶ。今度、大きな美容院がオープンするらしく、美容師なのかモデルなのかわからないけど、大勢でチラシを配っていた。雑誌で紹介された美容師が支店を出すらしい。ただごとならぬおしゃれ感ですよ。ここは駄菓子の町ではなかったのか。

わたしの町がどんどん遠くへ行ってしまうような不思議な寂しさ。おしゃれな男女が新店舗の前に集まり、記念写真を撮ってにぎわっている。だが、忘れないでほしい。その美容院も前までは、中古のゲーム屋だからな。オタクの聖地だからな。勘違いしないように。

誰に言っているのか。