玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

このブログの内容はすべてフィクションです

趣味

▼一緒に仕事を請けているN氏の家に。なぜか料理を作ってくれるという。圧力鍋で煮込んだ牛肉にタレをかけたものを頂く。柔らかくて美味しい。見切り品だけど、100グラム100円という安い肉だった。N氏が最近凝っているのは、安くて硬い肉を買ってきて、それを溶けるぐらいホロホロに煮込むことらしい。その気になればいろんな趣味を見つけられるものだ。

わたしばかり食べていてN氏はまったく食べる様子がない。

「食べないの?」

「俺はいい。肉を柔らかくすることだけに興味があるんだ。硬い肉をうまく柔らかくしたときが、たまらないんだよなあ。いい女を落としたときの達成感みたいな」

そう言うと、ニヤッと笑ってみせた。

おおおおお。寒気と嫌悪感が同時に襲ってきた。いい女て。おまえ、牛みたいな女としか付き合ってないのに。しかも100グラム100円ぐらいの。ものすごく硬そうで、喧嘩強そうな感じの。酔っぱらって居酒屋の横の自動販売機に頭突きしてたら、注意しにでてきた店員がビビッて、いったん店の中に戻って「よかったらこれどうぞ」ってウーロン茶くれたという、あの牛みたいな女。前世、闘牛士に突き殺されたのをまだ忘れてない闘争心あふれる目つき。酔っぱらうと過去の記憶がよみがえり、そこらへんのものに頭突きを繰り返すという。わたしも一度頭突きされた。

牛子の話はどうでもいいか。なんの話だっけ。趣味か。40代にふさわしい趣味とはなんだろう。わたし、人に言えるようなちゃんとした趣味がないからなあ。もっとも「肉を煮込むこと」がちゃんとした趣味かというと疑わしい。なにかいい趣味はないものか。