玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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頭の中の猫

▼友人A子と何年か振りに会う。A子は雑貨屋に転職していた。小さな店舗だが社員旅行があるという。いまどき珍しいですね。

だが、旅行まで職場の人間と行くのは煩わしいようなのだ。気持ちがわからないでもない。そこでつい、「猫を飼っている」という嘘をついて社員旅行を欠席したという。猫がさびしがり屋で、一日以上預けておくと具合が悪くなるからペットホテルにも預けられない設定なのだ。凝っている。

しかし、その場しのぎで猫を飼っていると言ってしまったため、職場で猫好きのEさんから写真を見せてくれとか、猫の話をしてくれとか言われて困っているらしい。Eさんに見せるため、ネット上の猫写真を画像編集ソフトで加工したり、猫の飼育本を読んだり、猫の餌の種類や値段までチェックしているそうである。小説などを読んで、架空の猫エピソードを仕入れ、Eさんに話していたものの、だんだん苦しくなってきたという。何をやっているんだ、おまえは。

ついにネタに困ったA子は、飼い猫の小梅(3歳メス、架空)を、急遽発生した猫アレルギーのために泣く泣く親戚に預けるという話をでっち上げた。Eさんにその話をするとき、自分で作った話に入り込みすぎて自然に涙が出てしまったという。病院紹介しようか。Eさんも、もらい泣きしてしまったらしい。だが、これでEさんから猫について聞かれなることもなくなり気が楽になったという。

ところが、二年ぐらい飼い猫小梅について嘘エピソードを作り続けてきたため、気持ちにぽっかり穴が開いたようになってしまった。ボーっとしている間、小梅のことを考えたり、かわいい爪とぎや首輪を検索して「小梅に似合うかな」などと考えてしまうという。おおお。本物ですわー。本物のあかん人ですわー。いない猫で、猫ロスになっておる。

「あ、もうこんな時間だから帰らなきゃ。小梅が待ってるし」って、本当に怖いのでやめてください。

久しぶりに会ったA子は以前と変わらず元気だった。ただ、狂人になってました。