玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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命名

▼女子大生バイトの後輩ちゃんが犬を飼い始めた。「すごく悩んでて、家族でも意見が割れていて、名前が全然決まらないんですよ~」と言うが、悩みがそれとは幸せだなオイ。

後輩ちゃんから、名前を考えてくれと付箋を渡された。犬はミニチュアダックスフンドのオスで、和風の名前が良いのだという。付箋に思いついたものを書き、雑談しているときに付箋は回収された。

「では、この中から最初に引いたものに決めようと思います」と、後輩ちゃんは一枚の付箋を開けた。だが、それをクシャッとつぶし、二枚目を開ける。一枚目はなんだったのだ。二枚目の付箋には「マカロン」と書かれていた。隣席のTさんが書いたものだった。女の子たちは「マカロンてかわいいよね!」などと盛り上がっている。後輩ちゃんは、お母さんに確認してきますと自分の席に戻っていった。しばらくして戻ってくると、お母さんもマカロンが気に入ったそうで正式に決定となった。お父さんはいいのだろうか。ねえ、お父さんは。

そして、後輩ちゃんが握りつぶした一枚目の付箋を開けてみると、わたしの字で「すし太郎」と書いてあった。すし太郎、ボツだったのか。ちょっと待ってください。すし=和風、太郎=オス、これのどこがいかんのか。マカロンなんてオスかメスかもわからない。しかも、和風でもない。断然、すし太郎が正しい。だが、わたしの主張は無視された。「人は自分の見たいものしか見ない」というユリウス・カエサルの言葉は正しかった。結局、かわいいが第一条件だったのか。

「マカロンの写真見ます?」と後輩ちゃんが写真を見せてくれる。「すし太郎かわいいなあ」と言うと目が冷たい。「マカロンかわいいなあ」と言い直すと「ですよねえ!」と次々に写真を見せてくれる。これでいいのだ。すし太郎が幸せならば、わたしはそれでいい。