玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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連休

ゴールデンウィーク。いまだかつてゴールデンだったことはないが、今年は何色でしょうか。

仕事を請けている会社へ。電話が掛かってこないというだけで仕事場はずいぶん快適になる。ずっとゴールデンウィークだったら良いのに。知人のフェイスブックをこっそり覗いて、その生活ぶりが充実しているのを確認して妬むのが趣味である卑屈くんが来ていた。彼は、やたらとわたしにゴールデンウィークの予定を聞いてくる。暇なのは自分だけではないと安心したいのだろう。「全部予定が入っている」と答えると、卑屈君は顔を苦しそうにゆがめた。そんなに傷つかなくても。なにやら心苦しい。のび太に「未来へ帰る」と告げたときのドラえもんの気持ちって、こんな感じかしら。違うと思います。

「本当は全部空いてる」そう答えると、パァっと卑屈君の顔に光が射した。いい笑顔するなあ。どこまでもゆがんでおるね、君は。「そうだと思ったんですよ。しゅんさん(わたしのこと)だけは裏切らないと思いました」なんだ、裏切るって。

そのあと卑屈君から、会社近くのものすごくかっこいいデザイナーズマンションの外壁に「うんこ」と落書きがあった話を聞く。執拗に見に行くことを勧められたので見に行く。確かにこれは見事な。今年のゴールデンィークの収穫はこれだけか。

▼仕事に目途がついたので帰り支度をしていると営業のSさんがやってきて着替えていた。これから取引先のパーティーに行くので、よかったら一緒にどうかと誘われる。やっぱり営業は華やかだな。ドレスコードがあって、服装のどこか一カ所に赤を入れていかないといけないらしい。なにそのお洒落なやつ。芸能人のような。みんな、わたしが知らないところでそんなお洒落なパーティーをやっているのか。恐ろし。

しかし、突然言われても赤なんて持ってない。Sさんは「バラか何か挿していけばいいんじゃないですか」と言う。バ、バ、バラ? 貴族か。さっきまで「うんこ」という落書きがあるマンションを見に行ってましたけど。そんな人間でも大丈夫か。なんだか大変そうなのでやめておいた。

▼「パワー・ゲーム」という映画を観ました。経済格差などの社会問題が犯行動機の基になっているサスペンスです。モラルなき大企業や富裕層が描かれてますが、実はよく見ると貧困層にもモラルがないように思えたのでした。

ちょっと前に、不倫した芸能人がSNSで叩かれるというのがありましたが、あれも同じような構造なのだろうか。叩かれる側と叩く側の人間の価値観は実はよく似ていて、自分も同じ立場にあれば不倫をしたい。でも、お金がないのか容姿が今一つなのか、そんなことはできない。わたしはできないのになぜあいつだけおいしい思いを、その憎悪が攻撃に向くのだろうか。社会的に報われない立場にあるということもあるのかもしれない。

批難する者が特別高い倫理観を持っているようには思えない。自分が報われない位置にいることについて、何か正当な理由を見つけなければならない。まして、その理由が能力やお金の無さということは受け入れがたい。無意識にそこから目を逸らし、自分はこんなに清く正しい生活を送っているのになぜあいつだけという武装をするように思える。自己のプライドを保つために清貧にならざるを得ないのではないか。本当に清く正しい人は、他人を誹謗中傷することはない。

まあでも、こんな書き方をすると、金があって機会があればみんな不倫するのかといえば、もちろんそんなことはない。