玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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会長

▼前にいた会社の会長のところへ。もう八十半ばを超えたと思うが矍鑠としている。会長と出会ったとき、すでに会長は老人だった。なので、老けたかどうかよくわからない。老人というのは、ある時点からずっと老人である。ただ眼光は鋭く、話していると試されているようで怖い。

ある会社の応接室でお会いした。テレビには、芸人のとにかく明るい安村さんが裸で映っていた。いつものように、全裸に見えるかっこうで「安心してください。穿いてますよ」とやっていた。それを観た会長は「なんだ、この男は!」と怒り出した。

会長にしてみると穿いていようがいまいが関係ない。裸でテレビに出ていること自体が許せない。以前、武井壮さんがタンクトップで出ていたときも「下着で出るとはなにごとだ!」と杖を振り回して怒り狂っていた。

わたしは安村さんを観ても、腹も立たなかったしなんとも思わなかった。だが、夜中ならともかく、裸の男が昼から堂々とテレビに出るということは実はおかしなことかもしれない。おかしいと感じないほうが、よっぽどおかしいということもある。同世代とばかり話しているとこういうことに気づけない。

会長は眉間にしわを寄せて「おまえ、あれ(安村さん)どう思う?」とわたしに訊ねる。ここで「なんとも思わない」と答えたら、杖でふくらはぎあたりを叩かれる。会長のことはよくわかっている。「社会の公器であるテレビでやるにはあまりに品がない。やるなら夜中にすればよい」と、会長が望んだ回答を出した。媚び媚びで生きてゆく。長い物に巻かれる人生。

自信満々でいたら、杖でふくらはぎをビシッと叩かれた。「おまえ、どう答えたら俺が喜ぶか、わかって言ってるだろう?」とにらまれた。「ははは。介護です、介護」と言ったら、また叩かれた。誰かこの暴走老人をとめてくれ。
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