玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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▼知り合いの家にお邪魔する。猫が四匹いる家だった。三匹は何年も前からおり、一匹は庭先で怪我をしていたものを先日拾ったばかりだという。痩せて目ばかりギョロギョロして、まだ野生が抜け切ってない様子の黒猫だった。歳は二歳になるかならないかという。

三匹の先住の白猫は、それぞれ器量も良く人に馴れている。みな、かわいいかわいいと撫で回していた。黒猫は器量も悪い。目を吊り上げ毛を逆立てて激しく威嚇するものだから、いよいよ誰もかまわなくなって、ますます手が付けられないようだった。

わたしも同じ器量の悪い者として親近感がみょうに湧くというか、おもちゃの猫じゃらしなどを振ったり、ずいぶん長く遊んでいた。2、30分も遊んでいただろうか、遊びつかれた黒猫がふらふらとこちらにやって来て、あぐらをかいている膝の上に乗ってきた。先ほどまでの目に険のあるような表情ではなく、どことなく柔らかい。しばらく、体が気持ちよくおさまる場所をもぞもぞと探し、具合のいい所を見つけたのか、大きなあくびを一つするなり眠りだした。

さっきまであんなに威嚇していたのに、まるでこの寝床は自分の物だと言わんばかりの態度がおかしかった。飼い主が「この猫が人に体を触らせるのは珍しい」と驚いていた。黒猫の体はとても痩せており、撫でていると骨の形が手に伝わってくるようだった。

お暇する時間になり、最後にまた黒猫を撫でてから帰ろうとした。すると初めて会ったときのように、毛を逆立てて「キシャーッ!」と激しく威嚇するのだった。あれ、さっき、わかりあえた感じになっていたじゃないですか。今まで野良として苦労してきたけど、ようやく心休まる場所を見つけたみたいな。そういうちょっと心温まる展開ではないのか。君らの考えることはまったくわからん。「キシャーッ! キシャーッ!」威嚇する声に見送られながら玄関を出た。

わかりあえないまま家に着いた。
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