玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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地図

▼女子大生バイトあたしちゃんがバイトを辞め、代わりにあたしちゃんの後輩が入っていた。後輩ちゃんと呼びたい。張り切っているがまだ仕事も与えられず特にやることもないらしい。打ち合わせ場所の印刷を頼んだら、なぜか手書きの地図を渡された。急いでいるのでよく確かめもせずに地図をもらったが「目的地はここだニャー!」と猫のイラストが描いてある。この地図、大丈夫か。

駅からだいぶ歩いたが、なかなか目的地までたどり着けない。どうもこっちではない気がする。ビルは減って畑と住宅ばかりになってきて不安。小学生から「こんにちは~」と挨拶される。いい所だなあって‥‥迷子じゃんかあ! 40歳目前にして迷子になっていいものか。四十にして惑わずと言うがありゃあ嘘だね。道に迷い人生に迷う。お菓子はうまい、ゲームは面白い。何も成長せずここまで来てしまいました。そういうこと言うのやめよ。へこむ。

畑にいたおじさんに地図を見てもらうが「この猫の絵、彼女が書いてくれたの? いいね~」などと埒があかない。違います。のんびりした土地だ。

地図をあらためて確認すると、なにか違和感がある。目印がまるで見当たらない。地図を逆さまにして気づいたが、後輩ちゃんは南を上にして地図を書いたのだった。だが、方位磁石のマークは北を向いている。どういうことだろう。打ち合わせを無事に終え、会社に戻ってから後輩ちゃんに聞いてみた。

すると、方位磁石の矢印の先は北を示すのではなく、その絵が地図であることを示すために入れるものだと思っていたという。なにその斬新な解釈。完全に間違えてますけど。

「それはともかく、あそこはいいところだね。小学生が知らない人にも挨拶したり」と言えば「それは、しゅんさん(わたしのこと)が不審者だからじゃないですか」と返された。後輩ちゃんが子供の頃、怪しい人を見かけたら積極的に挨拶するよう指導を受けたという。積極的な挨拶が犯罪減少に繋がるということらしい。

「絶対、不審者だと思われましたね」

「それもこれも南が上の地図を描いた人のせいだと思う」

「もうちょっとで通報されるところでしたね」

「南が上の地図なんて常識としてありえん」

「もう通報された後だったりしてー」

話は噛み合わない。我々はわかりあえない。世界から争いがなくならないのも当然。

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