玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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悪女の素質、祖父の日記

▼友人夫婦の家にお邪魔。友人夫婦の子シラスちゃん(5歳)と話す。

食べ物の話をしていると「それってシラスとどっちが美味しい?」と訊かれる。彼女にとっての基準は、シラスよりうまいかまずいか、シラスプラスマイナスで測られる。すてき。フォアグラやキャビア基準でなくて良かった。嫌だわ、そんな5歳。

シラスちゃんはおぼつかない箸使いで、わたしの皿に酢豚を取り分けてくれた。気が利く子なのだ。見ていると、彼女が苦手なピーマンをわたしの皿に多く忍び込ませている。自分がピーマンを食べる確率を少しでも減らそうとしている。親切で取り分けていると思わせつつ、自分の利益も誘導するとは。悪女の素質あり。将来、いろんな男をだまくらかしてほしい。



▼祖父の日記が出てきた。祖父は、あまり口をきかない人だった。孫との接し方がよくわからなかったのかもしれない。わたしは祖母のほうに懐いていた。

日記帳が買えないわけでもないのに、一辺が掌程度の大きさの紙をわざわざ綴じて、手製の日記帳を作っている。正方形で表裏はダンボールの紙を使っている。そんなところが物を大切にする祖父らしい。

祖父は一切文句も言わず、夫婦仲も良かった印象だった。だが、日記を読むとたまに喧嘩もしている。祖母についての不満も書いてある。

「ばあさんは、もっと優しい言い方をすべき」とか「毎夕、おかずが定まっている(同じメニューという意味だろうか)」とか「ばあさんが口をきかぬ。面白くない」など微笑ましくもある。気に入らないことがあると、親戚が呼び捨てになっている。

日記のあちらこちらで漢字の練習がしてあり、辞書を書き写したのか、難しい言葉が書き連ねてある。祖父は学校を出ていないらしく、そのことでコンプレックスがあったようだ。悲観的なことはほとんど書かれてないが「違った境遇に生まれたかった」と見たときは、少し驚いた。

毎日毎日が淡々としている。ごみを捨て、縁側を掃除し、コーヒーを飲んでお菓子を食べる。たまに近所の人間が訪れると話をする。退屈はしなかったのだろうか。最後のほうには「人に目くじらを立てず。ふんわりと」と書かれていた。歴史上の人物が遺すような名言ではないけれど、わたしは祖父の言葉を座右の銘にしようと思います。

だが、もっとも印象に残ったのはダンボールの表紙に書かれた言葉だ。メモ代わりになっており、いろんな言葉が書かれている。その中で、日記のタイトルのように一際大きく「自転車のパルプは、目薬の箱の中」と書かれている。

自転車のパルプってなんだろう。タイヤの空気を入れる部分の「バルブ」のことだろうか。祖父がパルプと言えばパルプなのである。「自転車のパルプは、目薬の箱の中」これも座右の銘にする。どう使うのかわからないけど。
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