玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

このブログの内容はすべてフィクションです

捻じ曲げる

▼お世話になっている会社へ。部長と合流して打ち合わせに向かう。ガードレールのない道を歩いていたところ、後ろから来た猛スピードの車に部長が引っ掛けられそうになる。もう少しで事故になるところだった。そのときに部長が話していたのは「生協のパン、めちゃくちゃまずい」である。

もし部長が亡くなって、ご家族に部長の最期の言葉を聞かれたら「『生協のパン‥‥、めちゃ‥くちゃ‥‥まずい‥‥』でした」と伝えねばならぬところだった。惜しかった。言ってみたかったのに。というような話を卑屈くんにした。

卑屈くんというのは部長の部下である。彼は知人のフェイスブックを確認して、その生活が充実しているのを見て妬むという趣味を持つ。口癖は「どうせ僕なんか‥‥」でお馴染みの卑屈くんである。お馴染みかどうか知らんけど。

そんな卑屈くんは、わたしの話をどう省略したのか、面白おかしく部長に報告したらしい。給湯室にいたわたしのところにツカツカと部長が寄ってくると、にやりと笑いながら「おまえ、俺のこと『死ねばよかったのに』って言ったらしいな」と言う。なぜそうなりますか。全然違うでしょうよ。

部長の最期の言葉が「生協のパン、めちゃくちゃまずい」だったら、ちょっと面白いかもというだけなのに。なぜそう事実を捻じ曲げて伝えてしまうのだろう。部長につきましては、末永くお幸せにとしか思っていない。わたくし、どこまでも部長様についていきます。

毅然と弁明し誤解を解かねばと思いましたが、部長が「もう、おまえ仕事やらねえぞ」などとパワハラじみたことを言う。だから「死ねばよかったのに」も、あんまり遠くない場所にあるなと思えたので、間違いではないかもしれない。結果として、そんなにずれてなかったという。それはそれとして、卑屈くんには近々制裁を加える。

昼は生協のパンを食べた。部長の遺言通り、たしかにまずかった。


▼鹿児島県は振り込め詐欺の被害がもっとも少ないというニュースを見る。鹿児島は隣町でも方言が違うらしく、成り済ますのが難しいらしい。方言の難しさが戦国時代から役に立っており、他国からのスパイを方言によって捕まえていたという。その名残が現代にも残っているのかしら。

他にも振り込め詐欺の予防法として有効なのは、家族で電話するときには必ず下の名前を名乗る決まりを作るといいらしい。先日も、下の名前を名乗らなかったのを不審に思われ、通報されて捕まったというニュースを見た。わたしも注意したい。

ダンサーがブロードウェイの舞台で踊ることが一流の証のように、振り込め詐欺も鹿児島の人間を引っ掛けてこそ一流。わたしも一流になる日を夢見てがんばろう。がんばれ、明日のわたし! 夢をあきらめないで!

なるべく早く死ぬよう努力します。