玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

このブログの内容はすべてフィクションです

転職

▼年始か年末か忘れてしまったが、クイズ番組に作家の西村賢太さんが出ていた。たまにクイズ番組で見かけることがある。好きなのかな、クイズ。「お金になるからです」とか言いそうだけども。

私小説の「苦役列車」を読む限りではテレビや芸能人を嫌っている印象があった。作品から、何不自由なく暮らしている人々への嫉妬、憎しみなどを強く感じた。そういう世界を嫌っていながらも、実はそちら側へ行きたい、行きたいのに行けない、故に憎む。自分でも御せないほどの嫉妬心に手を焼いているようだった。

で、笑っていいともに出たとき、前年の年収が5000万を超えたと明かしていた。一気に富裕層の仲間入りである。貧しさという石炭をくべて暴走した苦役列車だけど、豊かになってしまったら、同じエネルギーで走り続けることはできるのだろうか。動機が失われ、牙が抜けてしまわないのか興味がある。ミステリーや歴史を題材にする作家と違って、私小説の場合、作品を書くには個人的動機がとても重要に思える。お金持ちになった今後、どういう作品を書いていくかが気になるところ。


▼小学生も5年生ともなると、だんだんに人を信用しなくなる。友人夫婦の子ター坊(小学5年)も、わたしのことを信用しなくなってきている。今まで嘘をつきすぎたからかもしれない。

わたしの職業についても、いろんなことを言ってきた。最初は、セミの抜け殻を集める人だったと思う。集めた抜け殻を粉末にしてコーヒーにするためだと説明した。コーヒーの茶色はセミの抜け殻の色という設定。小学2年ぐらいだったター坊は、次に会ったとき、セミの抜け殻を3つほど集めてくれていた。きらきらした瞳で「これ、あげるね。美味しいコーヒーできるといいね」などと言う。

わたくし、「レ・ミゼラブル」を思い出しました。ジャン・バルジャンは、親切にしてくれたミリエル司教の銀食器を盗んでしまう。ジャン・バルジャンは、すぐに警察に捕まるものの、司教はジャン・バルジャンをかばう。銀食器は彼に上げたものだと言う。それどころか、銀の燭台を手にし「この燭台も上げたのに、なぜ持っていかなかったのですか?」と言って、銀の燭台も上げてしまうのだった。ジャン・バルジャンは司教の優しさに触れ、改心する。人を改心させるのは、罰ではなく赦しである。

ター坊司教の親切心に、今更嘘だとも言いづらく、セミの抜け殻を受け取ってしまう。セミ、苦手なのに。また抜け殻を持ってこられても困るので「転職しました‥‥」と言った。嘘をつくのが心苦しくもあるが面白くもあった。わたしの心の中では天使と悪魔が戦っている。天使1:悪魔9ぐらいである。悪魔、圧倒的有利。がんばれ天使ちゃん。というわけで、まだまだ改心せず。

以後、天津甘栗の殻を剥く人、ジグゾーパズルを作る人、携帯電話の画面に保護フィルムを貼る人、三毛猫の雄雌を見分ける人、動物のカツラを作る人などを経て、現在は、レンコンの穴を開ける人だ。これが疑われている。

レンコンを煮たとき、味がつきやすくなるように彫刻刀で穴を開ける仕事。レンコン掘るのに一年、洗うのに三年、その修行を経て、レンコン師匠から穴を開けることが許される。レンコン師匠、厳しい。レンコン師匠の口癖は、レンコンの上にも三年。そろそろ嘘がばれそう。次の転職先を探している。
JUGEMテーマ:日記・一般