玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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満月のおまじない

▼「人の言うことをやってみる」というのが、最近やっていることである。なにせ人の言うことを聞いてこなかった。それ、小学生のうちに覚えることだろうと言われそうだが、覚えなかった。そして今のロクでもないわたしがいる。

自分がいいと思ったことだけをやっていると、自分の枠から抜け出せないような気がする。歳をとればとるほど、自分がいいと思うことしかやらなくなるから恐ろしい。偶然性というのが枠を超えるきっかけになる。メールを頂きまして、満月の日に財布を振ると臨時収入が入るという話が書いてあった。以下、教えていただいたやり方。

・お財布にお金は入っていなくてもいいが、クレジットカードや領収書など、お金が出ていくことに関連するものは抜く。
・通帳とお財布を外気にさらしながら振る。できれば3分以上。
・「今月も臨時収入がありました。ありがとうございます。」と過去形で言う。

中学時代のわたしならば「根拠がないからやらない」と言っただろう。なんて嫌な子供だ。なるべく早く死ぬようにがんばります。で、生まれ変わったわたしは、やってみた。あいにく今晩の関東地方は雨だが、雨でも曇りでも効果があるという。

財布を手にして網戸を開けたとき、ガタンッと大きな音がして網戸が外れたのである。外れた網戸はベランダの手すりの方に倒れてしまった。部屋の中からでは網戸が直せないのでベランダに出る。網戸を直そうと、窓枠に嵌めるのだがなかなか直らない。

参ったなあと足元を見ると、何か細長くて黒い物が見える。巨大なゴキブリだった。巨ゴキちゃんである。ちゃんを付けても、まったくかわいくならないから怖い。網戸を嵌めるために窓は開いている。派手に動いてゴキブリを刺激すると部屋に入ってしまうかもしれない。

と思った瞬間、ゴキブリはものすごい速度で移動し部屋の中に入ろうとする。慌てて窓を閉めて、間一髪ゴキブリが部屋の中に入るのを防いだが、窓に弾かれたゴキブリはわたしのほうに向かってくる。「わー!」という情けない悲鳴をあげてしまった。いいオッサンがびびっておる。

わたしの声を聞いて、隣のベランダから「どうしました?」と声が聞こえた。隣の住人が赤ん坊をあやすためにベランダに出ていたらしい。ゴキブリに驚いて悲鳴をあげたのがみっともなくて「ちょっと網戸が外れて‥‥」などとごまかす。少し言葉を交わしつつ、ゴキブリの動きを目で追うと、やつは火災のときに破ることができる境界壁の下から、隣に逃げていくではないか。やりました。隣の人よ、すまぬ。あなたの死は無駄にはしない。死んでないけど。慌てて網戸を嵌めなおして部屋に入った。

つまり、この話からなんらかの教訓を得るとすれば「臨時収入が入るおまじないを聞いて、網戸を開けて財布を振ったら、網戸が外れて直そうとしたらゴキブリが出て、驚いて悲鳴をあげたら隣人が心配してくれて、その間にゴキブリは隣家へ」ということである。どういうことだ。

いろいろありましたが、わたしは元気です。もう何を書いているのか、よくわからない。