玉川上水日記

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映画「25年目の弦楽四重奏」

25年目の弦楽四重奏
A Late Quartet / 2012年 / アメリカ / 監督:ヤーロン・ジルバーマン / ドラマ、音楽


良いことも悪いことも、すべては音楽とともに。
【あらすじ】
25年目を迎えた弦楽四重奏団「フーガ」。リーダー格のピーター(クリストファー・ウォーケン、左から二人目)が病気で引退を表明。メンバーたちは動揺し、さまざまな問題が持ち上がります。もめます。


【感想】
人生と音楽の軽妙な対比が多い映画でした。とても教訓めいて説教臭い話が多い。わたしはそういった話が好きなのでいいですが、心温まる話を期待すると「おやっ?」ということになります。だいたいもめておるよ。

この映画ではベートーヴェンの弦楽四重奏曲第14番が頻繁に登場する。ベートーヴェンは全七楽章をアタッカで演奏すべきだと言い遺す。アタッカとは、楽章の境目を切れ目なく演奏するという意味であり、演奏者にとっては大変である。ベートーヴェンさん、また厄介なことを言い遺す。

弦楽四重奏団のリーダー格であるピーター(クリストファー・ウォーケン)。ふだんは殺し屋とか、悪い人をやっていることが多いのですが、今回は物静かで温厚な紳士ですね。銃とかも撃たんし。

ピーターは、この長い楽曲を演奏中、音が狂ったときどうするかを学生たちに問いかける。狂った音のまま演奏を続けるのか、演奏を中断するのか。この長い楽曲とは人生を意味している。その問いに対し、自分で「わかんない」と言うあたり、お茶目なピーターさんである。

ピーターの若い頃の話も良かった。ある高名な音楽家の前で演奏したピーターは、緊張してうまく弾けなかった。だが、その音楽家は「すばらしい」と褒めてくれる。芸術に妥協なき姿勢を持つピーターは、彼が気を遣って褒めてくれたものと思い、その態度を不誠実だと思う。

数年後、その音楽家と親しくなったとき、なぜあのときは褒めたのかと訊く。そうすると彼は、ピーターの弾き方にすばらしい部分があったからだと言う。全体としての完成度はともかくとして、そのすばらしい一部分に感謝をし、批判は何かを言いたがる人にまかせておこう、というようことを言った。

人の欠点には、つい目が行きがちである。欠点ばかりに目を向けて大事なものを見失っているのではないでしょうか、現代人は。などと書けば、新聞の投書欄である。ロクでもない。いろいろ見失っている。見失ったままで生きていく。

芸術家の集団というのは、つくづく大変なものだと思う。物事を熱心にやっていると、どうしても他人のやり方が許せなくなるときがある。以前にいた会社でも、エンジニアは技術の問題ではなく思想の問題で対立していた。技術の問題ならばどちらが正しいかは検証してみれば明らかになる。思想の問題は根深い。思想の違いで会社を去る人間を何人も見てきた。

音楽が原因で対立し、一緒に演奏することで関係が修復する場面も描かれている。情熱のままに弾くことを主張する人物の意見を取り入れて、楽譜を閉じた場面なども良かったですね。

一箇所、気になったのがケンカになったときに相手を殴る場面である。音楽に命をかけている人間が簡単に利き手で人を殴るものなのだろうか。殴るかもしれん。フィリップ・シーモア・ホフマンが怒って殴ります。しかし、この人もけっこうやりたい放題なのである。不倫してるし。うーん、勝手よのう。


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