玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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A子の防犯対策

▼友人A子はお盆の間、実家に帰っていたという。実家から自分の住むアパートに戻ってきたら、ベランダの窓ガラスが割られており、窓の鍵が開いている。空き巣が入ったかと思い、慌てて部屋の貴重品を確認したが取られた物はない。割れた窓ガラスをよく見ると、空き巣が使うガラス切りのように綺麗に切り取られたのではなく、野球のボール大の穴が開いている。

どうも近所の子供が野球か何かをしていてガラスを割ってしまったようだ。穴と窓の鍵の位置が近いので、穴から指を入れれば、鍵を開けることもできる。ボールを取るために部屋に入ったのかもしれない。取られた物はないが、警察に届けたものか迷っているという。

今回は子供の仕業かもしれないが、一人暮らしの人間というのは空き巣に入られる不気味さがある。帰宅時、ドアを開けるときにわざとドアノブをガチャガチャやって、30秒ぐらいしたら扉を開けるという話を聞いたことがある。空き巣と鉢合わせしないよう、逃げる時間を作ってやるのだ。

A子は一人暮らしを始めたときは、扉を開ける際「今日も人を殺してやったぜ~。グヘヘヘ」と不気味に笑ってから、部屋の中に入ったという。頭がおかしいのではないか。だが、頭がアレな人ほど怖いものはないからな。空き巣がビビるか知らんけど。それより、近所の人に聞かれるのが心配だ。A子はよく引っ越すが、ひょっとしてこれが原因でご近所トラブルになっていたりして。わたしがご近所さんなら率先して通報する。

で、帰省の際にA子がしている防犯対策は、習字で半紙に何枚も「死」「殺」「呪」「血」などの文字を書き殴り、それを部屋中にばら撒くというものである。狂気を感じる。万が一、空き巣が部屋に入ったとしても、部屋中に散らばった気味の悪い文字を見て恐怖する。「この部屋の人間、異常すぎる!」となる。正解。異常だと思います。

今回、ベランダの窓の鍵が開けられていたにも関わらず、野球ボールは部屋に落ちたままだったという。どういうことだろう。ボールを探しに来た少年たちが、ガラスが割れているのを見つける。謝罪をしようと玄関のチャイムをならすが留守。ベランダ側からこっそり入ってボールを取ってしまおうと、ボールが開けた穴から鍵を開ける。

ベランダの戸を開け、カーテンを開けると、床に「死」「殺」「血」「呪」などの字が書かれた半紙が。そりゃ、ボールを取らずに逃げ出すわ。「うわー!マジでやばい家、見つけたわー!」と、盛り上がっただろう。いいなあ、ひと夏の思い出ができて。仲間に入れてほしい。

ボールが置かれたままであったところをみると、A子の防犯対策は効果があったのかもしれない。「わたし、習字で『呪う』とか書いてるときが、一番生きてるって気がすんのよねー」と目をキラキラさせて言っていた。他に、もっと充実した瞬間がないのか。A子からもらったお土産のお菓子を、友人Nに一個与えてみたところ美味しそうに食べていた。どうやら毒ではない様子。お土産ありがとうございます。