玉川上水日記

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映画「リンカーン」

リンカーン
Lincoln / 2012年 / アメリカ / 監督:スティーブン・スピルバーグ / 実在の人物を元にした映画


リンカーンは、きっとこんなふう。
【あらすじ】
アメリカ南北戦争終結前から憲法修正第13条(奴隷制禁止)の下院通過までを描いた。

【感想】
戦争場面があるものの政治を中心に描かれます。戦争場面は、わりと生々しくて、一人の英雄が戦場を大暴れとかそういうことはない。敵の目に指を突っ込んだり、死にかけている相手を銃床で殴ったり、鮮やかさとはかけ離れた、かっこよくもなんともない戦争が描かれる。

主演のダニエル・デイ=ルイスはリンカーンそのものに見える。よくここまで似せましたね。「きっとリンカーンはこんなふうだな」と思ってしまう。物静かで、冗談が好きで、話しかけやすく、だが、目的のためなら手段を選ばないという強い意志。

ヒステリックなリンカーン夫人メアリー・トッド(サリー・フィールド)も良かった。実際の夫人の写真を見てもよく似ている。役作りのために四か月間、ダニエル・デイ=ルイスとサリー・フィールドが当時の文体で、メールを送りあったという話もすごい。

奴隷制反対を唱える共和党議員タデウス(トミー・リー・ジョーンズ)。現在のアメリカは、共和党が保守的、民主党が進歩的というイメージですが当時は逆なんですよね。リンカーンも奴隷解放に賛成であるものの、その主張を強くすれば他の議員や支持者が引いてしまうこともわかっている。だから玉虫色の動きというか、ちょっと何を考えているかわからないところがあって面白い。

物事をしっかりと考えている人は、ちょっと聞いただけでは何を言っているかわからないときがある。それは物事を単純化してないからだし「ようするにこういうことなんです」と簡単に言えるものではない。また、簡単に言えるとしたら、それはたいした問題ではない。リンカーンの人格はちょっとわかりづらく見えるが、それは思慮深さ故なのだろう。

頑なに奴隷解放を主張するタデウスと、奴隷解放には賛成であるものの、どういった形で主張をあきらかにするか思案するリンカーン。二人の駆け引きがいい。

映画ではインディアンについては触れられていない。リンカーンは奴隷解放の父として語られますが、インディアンについてはナバホ族、ダコタ族などの民族浄化を黙認している。リンカーンにとって黒人は人間でも、インディアンは人間ではなかったのだろうか。インディアンの虐殺は、リンカーンの父方の祖父がインディアンに殺されたことと深く関係しているのだろう。リンカーンほど聡明な人物ですら、復讐心を抑えることはできなかったのかもしれない。


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