玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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日曜日の部長

ツイッターをやめた。特に何かあったわけでもなく、日記の更新にしか使っていなかったので、やめてもいいかと思った。何かをやめるということは清々しい気分になる。思い入れが強かったり、時間やお金を使っていたときは、なおさらだ。

仕事やアルバイトをやめるときは、ずいぶんと清々しい気分になった。人生ならばどうだろうか。清々しい気持ちになるのだろうか。あれ、何か、ちょっと危ないことを書きだしたのでやめとこ。

▼日曜はお世話になっている会社の部長に呼び出された。休日に打ち合わせで呼び出されるなんて、これは何か不穏かつ重大なことなのではないかと不安になる。不安になったが、考えても原因がわからなかったので、不安になることをよした。

部長は特に変わった様子もなかった。いつもと違うのは、スーツではなく私服だということ。会社の人の私服姿を見ると、何か不思議な気分になる。そうか、この人にも会社以外の日常生活があるんだなという。部長は、わたしを呼び出しておきながら、なかなか打ち合わせを始めない。

で、急に「実はうちの子がさあ‥‥」と、仕事に関係ないことを話し出した。わたしを呼び出したのは、たんに子供についての愚痴を言いたかったらしい。お、おまえ、休日に深刻な感じで連絡あったら、仕事の話だと思うではないか。それなら、ちょっと話そうよぐらいでいいのに。

部長の子供(小学校3,4年)がちょっと悪いことをしまして、それ自体はたいしたことではない。そのときに嘘をついたので、部長がワシントンの桜の木の話をして叱ったという。

合衆国初代大統領ジョージ・ワシントンの子供の頃、父親が大事にしていた桜の木を切ってしまう。そのことを正直に父親に話したら、かえって褒められたという逸話である。しかし、いまどきワシントンの桜の木の話をするとは。すれた現代っ子にとってはどう映るのだろう。その場は、子供も納得したらしい。

翌日、子供が部長のところに来て得意気に言ったという。
「お父さん、お父さん、ウィキペディアで調べたら、ワシントンが子供の頃はアメリカ大陸に桜の木がなかったんだって。だからあの話は事実か疑わしいんだって!」

その話をわたしに伝えたときの部長の悲しそうな表情。「おまえ、大事なとこはそこか‥‥」という。部長は脱力して「ああ‥‥、そう‥‥」とだけ答えた。わたしの両肩をガッシリつかんで「おまえ、これどう思う!」って、どう答えればいいのだろう。

「えーと、あの、部長に似て聡明なお子さんで」ってニヤニヤしながら言ったら、両肩が痛い。ゴリラに握られているような。あれ、部長ってゴリラだっけ?この会社、人材がいないから、頭のよいゴリラを捕まえて部長をさせているんだっけ?などと思いました。

今後は、ウィキペディアを「お父さん」と呼ばせて、部長は「第二お父さん」と呼ばせればいいんじゃないですか?と提案したところ、本当に悲しそうな顔をしたので、缶コーヒーをおごってあげました。がんばれ、第二お父さん!ウィキペディアに負けるな!あんなのもの、都合よく編集したっていいんだよ。

▼ワシントンの桜の木は、有名なジョークがある。

先生が、生徒に訊いた。
「ワシントンの父親は、なぜワシントンを許したんだと思う?」
「ワシントンがまだ桜を切った斧を持っていたからです」
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