玉川上水日記

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映画「フライト」

フライト
Flight / 2012年 / アメリカ / 監督:ロバート・ゼメキス / ドラマ


ヤク中で、アル中の機長がすごい着陸をキメます。
【あらすじ】
旅客機の運航中、尾翼が破損する事故が発生。しかし、ウィップ機長(デンゼル・ワシントン)は卓越した技術で緊急着陸を成功させ、墜落をまぬがれる。だけど乗務中にマリファナとお酒をやっていたので問題に。そりゃそうだ。

【感想】
デンゼル・ワシントンが麻薬をやっている表情が本当に良かったですね。目にお星様が浮かんでいるようなキラキラした表情で。

これは飛行機が故障して緊急着陸しなければならない場面ですが、薬が残っているせいで楽しげ。いやあ、実に楽しそう。いい表情だ。失敗したら死にますが。

この太っちょのおじさん(ジョン・グッドマン)、いろんな映画で見かけますが名脇役ですねえ。ウィップ機長から呼び出しがかかると電話一本でどこからともなく現れる。「30分で行くから待ってろ」と頼りになる存在。水のトラブルのとき、電話一本で来てくれるクラシアンという頼もしい業者がありますが、あの麻薬版です。麻薬版クラシアン。すぐに駆けつけて、ウィップ機長と一緒に麻薬をやりだす。

この映画は、アルコールに苦しみ、そこから抜け出そうとしつつもなかなか抜け出せない人間の弱さを描いている。深みから抜け出せるかどうか、人間として踏み止まれるかどうか、そこで観客はハラハラする。禁酒していたウィップ機長が、悪魔に魅入られたようにフラフラとアルコールに引き寄せられる。あのホテルの場面は本当に良かったですね。

映画はよくできていますが、このダメ機長がデンゼル・ワシントンというのがやはり苦しい気がする。せめてニコラス・ケイジだったならば。デンゼル・ワシントンの演技はすばらしいものの、ダメ人間とはどこか遠い。隣に住んでいてほしいハリウッドスターランキング(わたしの妄想)の1位が、デンゼル・ワシントン、2位がジョージ・クルーニーである。逆に、住んでいてほしくないのがニコラス・ケイジである。ホームパーティーで家を爆破したとしても不思議ではない。そういう危うさがある。ニコラスはそれぐらいやるはずだ。

つまり、デンゼル・ワシントンが演じると「結局、最後は踏み止まるんでしょ?まともな人間におなりでしょ?」という目で見てしまう。これは映画そのものの出来とは関係ないけど。デンゼル・ワシントンから滲み出る真面目さが邪魔をしている。デンゼル・ワシントンでイメージしづらい場合、トム・クルーズやジャッキー・チェンに置き換えてもいい。どんなに悪そうに見えてもいい人とか、悪いなりに美学があるとか、結局はちゃんとした人という安心感がある。

凛々しい顔付きですが、シャキッとするために麻薬をやりました。うーん、麻薬が問題で公聴会に呼ばれるのだけど、そこに行くときにも麻薬をやるってのがねえ。清々しいほどのクズっぷり!

しかし、この人、やはりただのクズではないんですね。並外れた操縦技術によって大勢の乗客の命を救う。シミュレータで事故の状況を再現し、他の機長に操縦させたところ、みな墜落させてしまった。並外れた技術を持つがアル中で麻薬大好きである。だが、彼でなければ飛行機そのものが墜落していただろう。運輸安全委員会が、マスコミによりヒーローとして祭り上げられた機長をどう処分するのかというのも興味深かった。

この映画には完全な善人は出てこない。主人公のウィップ機長はあんなだし、真面目な副機長はゴリゴリのキリスト教原理主義者。機長が病院で知り合った恋人もアルコール中毒である。航空会社の同僚は、彼の事故を覆い隠して会社を守ろうとする。航空会社が機長につけた優秀な弁護士は倫理観の欠片もない。だが明らかに善とも悪とも言えない、少しばかりどちらかに傾いてしまった人々が出てくる。「ふつうの人」「平均的な人」というのは頭の中にしか存在しない。どこにでもいそうに見える脇役たちが持っているいびつさも良かったですね。

デンゼル・ワシントンは、本当に救いようのない人という役も一度やってほしい。
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