玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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再会

▼友人A子、M彦と会う。20代の頃、彼らと一緒に働いていたことがある。3人揃うのはずいぶん久しぶりのことで、前に会ったのはいつのことか思い出せない。A子が会うなり、口を開いて言ったのは「最近、ようやくタッチ読んだんだけど」ということだった。久しぶりに会って急にそれか。

タッチというのは、あだち充さんが描いた高校野球を題材にした野球漫画である。1986年発表ということで、もう発表から30年近くたっている。すると朝倉南も、もう50歳ぐらいなのか。あの南ちゃんが。プラセンタ100を貪り食い、コラーゲンや朝鮮人参、ウコンを飲みまくる。最近は膝の関節と腰痛、目の疲れが悩みの50歳である。嫌なことを書くなという。

A子はひとしきり、タッチのすばらしさを我々に語った。タッチが面白い作品だということはわかるが、何年かぶりに3人揃ったのに30分ぐらい延々とストーリーを語るのだ。熱く語っている様子がちょっと面白い。

で、ラストシーンまでようやくきて、いかにも感に堪えないというふうに「『上杉達也は朝倉南を一生愛し続けることを誓います』っていうセリフがー」というところで、M彦が口を挟んだ。

「誓う?誓うって、いったい何に対して誓うんだ?」「え‥‥、さあ?」「ふつう誓うというのは、神に対して誓うものだから、つまり上杉達也は有神論者ということになるね」「は?」「日本のカップルが結婚式で簡単に誓えるのは、本質的には彼らが無神論者だからだと思う。本当に神を畏れるのであれば、そんなに簡単に誓えはしない。だが、それを言うと欧米人も簡単に誓えないことになるはずだが、誓っている。これはどういうことだ!?」「さあ?」「信仰が欠如しているのに形骸化した儀式だけが残ったのか。仏作って魂いれずだな。向こうは仏じゃないけど。ウププー」「べつに面白くないけど」

「で、上杉達也は朝倉南を一生愛し続けると誓ったのか」「そうなの!電話ボックスから告白の電話をかけるシーンがー」「無理だな」「なんでよう!」「恋に落ちると人はPEAという恋愛ホルモンを分泌するが、同一の相手に対して分泌されるのは約3年だ」「だから?」「つまり『上杉達也は朝倉南に対して約3年の間、PEAを分泌します』なら、可能かもしれない」「それじゃあ愛の告白にならないでしょ!」「何を言っているんだ。大切なのは真実だ!そもそも、愛とは何かという定義が不明確なのがー」

という不毛な会話を聞きながら、わたしは現実と夢の境を行ったり来たりしていた。とても心地よい時間でした。
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