玉川上水日記

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映画「サンキュー・スモーキング」

サンキュー・スモーキング
Thank You for Smoking / 2005年 / アメリカ / 監督:ジェイソン・ライトマン / コメディ


悪いヤツほど面白い。
【あらすじ】
タバコ会社の利益を守るため、黒いカラスも「白だ!」と言い切ります。おやー、なんだか白く見えてきたぞー。

【感想】
タバコ業界により設立されたタバコ研究所の広報部長ニック(アーロン・エッカート)は、タバコ業界の利益を守るため、巧みな話術で人を煙に巻く。「口から生まれてきた」という言葉がありますが、まさにそれはニックのためにあるような言葉。

とにかくプレゼンや説得がうまい。立て板に水なのです。タバコの健康被害を正当化するために、自動車事故やチーズの取りすぎによる死亡に結びつけたり、よくよく考えると議論のすり替えを行っているのだけど、話のテンポがいいものだから聞いていて気持ちがいい。詭弁だと思いつつ、もっと聞きたくなってしまう。

彼のように、優秀でいながらタバコ会社の宣伝をする人間の倫理観というのは、どうなっているか気になる。彼がタバコ業界を弁護して、大衆をうまく丸め込んだり、タバコのイメージ向上に成功すればするほど死者は増えることになる。気持ちの折り合いの付け方はどうしているのだろう。仕事は面白いし、給料も高いからOKということなのかなあ。いろいろ考えているように見えて、あまり何も考えてないようにも見える。

こちらはロビイスト同士のミーティング。左からアルコール業界、銃業界、タバコ業界です。みんなして「うちの業界は1日に何人殺した!」と競い合っています。わーお、クレイジーなミーティング。楽しそう。

正直なところ、善人というのは悪人よりもちょっと退屈なんですね。やはり悪人というのは面白い。悪人は、自分の欲望に対してはすごく正直で、そこが悪人の魅力の一つなのだろうか。ニックはタバコで人が死ぬということに対してもなんとも思っていない。今の仕事は「住宅ローンのため」と言い切るし、人を議論で打ち負かすのが楽しい。周りにいたら嫌な人かもしれないけど、困ったことに面白いんですよねえ。

嘘を嘘で固めたようなニックだけど、彼が唯一正直になるのが子供の前。子供に対してだけは誠実に向き合っている。作文の宿題をやっている子供から「アメリカ政府はなぜ最高なの?」と訊かれれば「そもそもアメリカ政府が最高などと思うのはなぜか?それは本当か?最高とは何か?」と訊き返す。先生が与えた前提を疑ったり、自分の頭で考えることを求める。

彼は喫煙について、しばしば「自由」という言葉をつかう。最初は、住宅ローンのために弄した詭弁の一つかと思った。でも、ここだけは本当のような気がする。この映画はタバコが有害かどうかについて、なんの主張もしない。

タバコに限らず、あらゆる問題について人は自由に選択する権利があり(たとえそれが死を招いても)、またその選択した決断において責任を負うべきだと主張しているように感じた。特に大笑いすることもないのですが、皮肉の効いた面白いコメディでした。武器商人を描いた「ロード・オブ・ウォー」という映画がありますが、ちょっとひねった映画が好きな人は楽しめるかもしれません。

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