玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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ラストバイト →↓→P(強)

▼選挙が始まった。街頭演説がうるさいのは、政策を説明しているのだから百歩譲るとしても、名前を連呼して走り回る選挙カーというのはどうなんだ。うるさい。みんなあんまり怒ってないような気がするけど。

「山田です。山田です。山田をどうかよろしくお願いいたします」などと言われたら、ようし、わかった、山田にだけはなにがなんでも投票しないと心に誓うし、今後、わたしが出会うすべての山田に対して冷たく当たってしまいそうである。

しかし、選挙カーの言葉は、真面目に聞いているといろいろ種類がある。「すてきな笑顔ありがとうございます」「かわいらしいワンちゃん、癒されます」「みなさまの笑顔、エネルギーに変えさせていただきます」などなど。憎いあまりに詳しくなってしまった。それが悔しい。

昔から生徒会長などに立候補する人の気持ちがわからなかった。あんなもの、ごっこ遊びであると内心バカにしていた。で、わからないままここまで来てしまった。わからない人たちが世の中を動かしている。

▼昨日、テレビを観ていたら結婚式についてやっていた。わたしが知らないうちに結婚式もいろいろ変わっていた。結婚情報誌ゼクシィの編集長が説明していましたが、ラストバイトという儀式が驚きだった。有名なのだろうか。格闘ゲームの必殺技っぽいけど違った。

結婚したら、新婦から食べさせてもらうのだから、母親が最後に新郎にケーキを食べさせてやるという演出。「アーン」というやつである。新郎が小さい頃に使っていたフォークやスプーンなどを用意することもあると言っていた。

久しぶりにテレビを観ていて、アハーという変な声が出た。もはや現代はわたしが生きていくにはあまりに過酷な環境になったので、テレビを消して「死のう‥‥」と、つぶやいた。まあ、それぐらい驚いた。わたしが歪んでいるのかもしれないが。

友人A子に電話して「世の中にはラストバイトという恐ろしい儀式があって‥‥」などと言ったら、平然と「知ってる」と言われてしまった。しかも「自分の価値観からはみ出たことだからって、批判するのはよくないと思う」などと、至極まっとうなことを言われてしまった。それは正しいが‥‥、どうしたんだ?憎悪を父に、嫉妬を母として、この世に生を受けたはずのA子が。「どこか悪いの?」と、ふつうに訊いてしまい、怒られた。

なにやらわたしも気が抜けてしまった。一緒に仕事を請けているN氏から連絡があり、ふと雑談でラストバイトの話をしてみたら、まあ、怒っていた。激怒激怒で手がつけられない。「それは、あれか?アーンしてもらわないと家族を皆殺しにするって脅迫されてるんだろ?でないとやらないよなあ!」などと、悪口を言いまくっていた。

ようやく友人A子の気持ちがわかったが、自分よりも興奮している人がいると引く、ということだ。わたしはN氏に優しく伝えました。「自分の価値観からはみ出たことだからって、批判するのはよくないと思う」

うーん、ここにきて生ずる不思議な優越感。わたしはそっと電話を切りました。
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