玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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踊る阿呆に見る阿呆

▼打ち合わせの中心だった人物が演説をし出した。「業界のヘゲモニーを握り‥‥」という変わった言葉をつかっている。どこかで聞いた覚えがあるなあと思えば、学生時代の政治学の講義だった。「ヘゲ」と「モニー」がみょうにかわいいのではないか。「ヘゲ?」とすると更にかわいい。意味は「覇権」である。かわいいのに、覇権。その違和感だけで頭に残っていた。

つい必要もないのに人は英語にしてしまう。「パソコン」などは「電子計算機」というと逆にわからなくなるから仕方ないが、それにしても「ヘゲモニー」はどうなんだろう。意識、無意識はべつとして、難しい言葉をつかうことで優位に立とうとしているようで恥ずかしい。

そこへいくと、長嶋茂雄の英語のつかい方はすばらしかった。
「失敗は成功のマザー」
漢字の鯖(サバ)を説明するときに「フィッシュ偏にブルー」

天才ではないか。鯖のつくり(漢字の右側)は旧字体の「青」なので、ブルーで問題ない。わたしも必要のない英語をつかいそうになったとき、フィッシュ偏にブルーに立ち戻りたい。いつも心にピチピチのサバを飼っておきたい。

▼駄目な人というのはいい。友人Oは、かなり駄目な人間である。以前に一度書いたが、ちょっと興味があることにはなんでも手を出してしまう。習い事の雑誌に載っているようなことは一通りやっているのではないか。

キューバダイビングやジャズダンス、書道、英会話、手話、ガラス細工、写真、とにかく気になったらすぐに突撃である。しかも、飽きっぽいのでまったく身についてないからすごい。絵を買わされる詐欺や、出会い系詐欺にも引っかかっている。借金もすごい。

Oの人生を本にしたら面白いだろうなと思う。とにかく何かが起こっているし、一緒にいるとよくないことに巻き込まれることも多い。でも、こういうのが面白い人生の過ごし方に思える。

阿波踊りの歌詞で「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃそんそん」という部分がある。印象的でずっと気になっていた。あれは人生を意味しているのではないか。たとえば、目の前にテレビが置いてあるとする。このテレビになぜ映像が映るのだろうと、テレビの仕組みを考えて一生を送るのもいい。だが、番組を観て楽しむというのが本当ではないか。

阿波踊りは「観察者であるより実行者であれ」と言っているように聴こえるのだ。そこへいくと、友人Oはだいぶ踊っている。みんなが阿波踊りを踊るなか、一人だけブレイクダンスを踊っている。勢い余って、踊っている最中に崖から転落するのが見えました。

そんなOや他の友人と久しぶりに会った。まあ、相変わらず滅茶苦茶な人だ。会うなり「一万円貸してくれ。返さないけどな!」と、笑っていた。しかし、目は笑ってない。様子を見て本気で借りようという目である。三十代後半で一万円貸してくれって、相当駄目な状態である。

Oは早々と酔いつぶれてしまった。起こしたがなかなか起きずに、何かゴニョゴニョ言っている。すると突然、大声で「に、に、日本をしょって立つはずの俺が!こんなところで、情けな~い!」と叫び、また寝てしまった。

驚いた。日本も、とんでもない物に背負われようとしている。日本を背負う前にOに言いたいのは、飲み会の代金を払ってないのはオマエだけということです。