玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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無人島本

▼小学生の頃、「雰囲気(ふんいき)」という言葉を「フイーキ」と発音する友人がいた。いつものように友人たちと遊んでいるとき、彼が「フイーキ」という言葉を使うと、誰かが「フイーキじゃなくて、ふんいきだよ」と指摘した。みんな、フイーキは変だと囃し立てた。

彼は、すがるような目でわたしを見て「フイーキって言うよな?」と訊く。「ふんいき、だよ」と、わたしも否定した。そのときの彼の寂しそうな目。まさか、その後、あんなことになるなんて‥‥。

特になにもなかった。というか、彼は25年以上たった今でも「フイーキがいいよな!」と言い続けておりますので、あの日ちゃんと「ふ・ん・い・き、です!」と言っておけば良かった。

忘れていい思い出が山ほど、をお送りしました。

▼実際のところ、彼が「フイーキ」というのは少し気に入っている。「フイー」の辺りが気楽な感じでとてもいいのだ。あれを聞くと、「悪くない」という気持ちになる。たまに口に出して言うことすらある。「うーん、フイーキがいいなあ」愉快な気分。

無人島にずっといなければならないとしたら、一冊何を持っていくかという無人島本の話。広辞苑(辞書)というのがわたしの答えだった。暇なとき読むのはもちろん、何かを書くときにも使える。

友人Nはまったく違う考え方だった。「好きな作家の未読の本を一冊持って行く。その本は読まず、楽しみにとっておく。そうすれば、その島で何かつらいことがあっても堪えられると思う」

なにそれー。ちょっとかっこいい!よそでこの話をするとき、わたしはこの答えにしよう。「わかりきったことを‥‥、やれやれ」という表情で答えよう。そうだ、特許を申請しておこう。
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