玉川上水日記

このブログの内容はすべてフィクションです

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趣味

▼友人Nと趣味の話をした。思えば趣味のない人生である。お互いなんの趣味も特技もない。存在価値もない。やめて、そういうの。

しかし、趣味を持たなければいけないとか、幸せにならねばならないとか、実は幻想なのでどうでもよいのだけど、趣味ぐらいあってもいいと思うんですよ。話しているうちに「そういえば、趣味あった」と、友人Nが語り始めた。

中学時代というのはみな猥褻(わいせつ)な書籍を収集します。猥褻な書籍を収集するために生きているのが中学生男子だし、それ以外に生きている目的はない。友人Nも模範的中学生だったので、日々収集業務に勤しんでいた。

彼は団地住まいで、自分の部屋も狭く、だんだんと本の隠し場所に苦慮するようになった。彼の部屋は北側にあり、窓を開けると芝生を挟んで向かいの団地が見える。夕方、ふと思い立った彼は、エロ本を一冊手に取ると家を出た。

芝生を越えた向かいの団地の一階には、同級生Tが住んでいる。彼にゲームを借りたこともあって、お礼の気持ちでエロ本を一冊、Tの家のベランダに置いてきた。ちょうど在庫処分にもなるしWINWINの関係である。「良いことをなされましたな‥‥」と、一人つぶやきながら友人Nは家に帰った。

彼の家からTの家はよく見える。部屋でゲームをしていると、外で何か大きな声がする。窓を開けると、Tの家のベランダでTのお母さんがものすごい勢いで怒鳴っている。「あんた!こんな本ばっかり読んで!」団地というのはけっこう声が通るので、向かいの団地の様子もかなりよくわかる。Tのお母さんが本を見つけたらしい。Tは必死に弁解しているが信じてもらえない。それはそうだ。

Nはその様子を見て、とても興奮したそうである。彼は、Tが本を見つければそれでいいと思ったし、Tのお母さんが見つけることも考えたが、それならばそれでいいと思ったそうである。

「法律用語でいう未必の故意だな」と、Nは偉そうなことを言ったが、間違いなくただのバカである。それからのNは、自分のコレクションがいっぱいになると、Tの家のベランダにそっとエロ本を置くことを繰り返した。で、たまにTのお母さんが見つけて激怒するのを、自分の部屋から眺めて興奮していたそうである。困った変態だよ。

「これが俺の中学時代の趣味だ」と言い放ったが、それは趣味というか犯罪だ。エロテロリストである。Tはといえば、なぜエロ本がベランダに置かれているのかわからず「近所に神様が住んでいて、たまに贈り物をくれるんだよ」などと言ってたらしいので、こちらも完全なバカである。バカと変態で、末永くお幸せにと思いました。

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